寂しさの埋め合わせを続け、ただ時間が過ぎるのを待つ

開沼 今回のお話もそうですし、ご著書『「AV女優」の社会学』(青土社)でのお話もそうですが、自発的に語っている、あるいは自分の意思で動いていると思っていることが、実はいつの間にか語らされていたり、動かされていたりという現象があるでしょう。そこには、動かされている自分を止められないことに対する、焦燥感に近い感覚があるようにも感じました。第三者の視点として語られる社会があり、それを自分ではコントロールできないことが、その焦燥感をさらに根深くしているのかなと思います。

 どうやっても満たされない理想や欲望が常にあるわけですよね。それは失った若さなのかもしれないし、キャリアなのかもしれませんが、時間によって失ったものを取り戻すことはできません。そうした葛藤といかに付き合うかを考えたとき、当面は、結婚なのかブロガーなのかソーシャル・ビッチなのか、既存の何らかの役割を与えてくれる制度や発達しつつある承認欲求充足テクノロジーを通して、うまく埋め合わせをしていくというのが結論になるのでしょうか。

鈴木 自分には時間による社会の変化は止められないし、自らの老いすらも止められません。いまよりも若い時は、常に幸福になりたいと思っている一方で、「たとえ幸福になれなくてもいいから、いまが楽しければいい」と思えていたこと自体に価値がありました。

 それがなくなってしまう寂しさといかに付き合っていくのかは、その寂しさの隙間を埋めるように「いいね!」をもらったり、パワースポットやホストクラブ行ったりすること、それをやり続けることで時間が過ぎるのを待つしかない気がします。AV女優というあの世界も、それを埋めてくれるものの一つではあり、だからこそそこにある高揚や空気感を、本にして残したかったという気持ちがありました。

開沼 今後はどのような活動をされていくつもりですか。

鈴木 幻冬舎の連載は11月下旬に単行本になる予定です。女子高生であることの価値について、いまは「ワイドショーの話題になっていたんですよ」と表現していますが、パンツを売る現場で私たちはどのような楽しさを満たしていたのかという話については、河出書房の編集者さんと一緒になって具体的に書き進めています。それから、ホストクラブやデリバリーヘルスの本も書くつもりです。

開沼 相当お忙しいですよね。大変ではありませんか。

鈴木 実は、近々いまの会社を辞めることになっているんですよ。結局、会社にいる間も、私はセックス産業にいたときの感覚から足を洗えていませんでした。風俗店のようなところでは働いていませんでしたが、無料で奉仕するセックスはしたくないという気持ちがあったんです。日経新聞の仕事一本では、金銭的にも気持ち的にも満足できていなかったんですよね。

開沼 今後もその生き方は変わりませんか。

鈴木 どうなんでしょうね、変わらない気もするし、何かで変わるのかもしれません。

開沼 今日はありがとうございました。

鈴木 ありがとうございました。

※対談収録は2014年8月13日に行われた。発言内容は当時のままを残している。