本誌2014年12月号(11月10日発売)の特集は「投資家は敵か、味方か」。投資家という存在を根本から問い直し、企業価値を高めるIR活動や資本調達のあり方を紹介する 。HBR関連記事の第1回は、「物言う株主」(アクティビスト)と取締役会の関係について。モトローラの事例から、アクティビストとうまく付き合う条件を学ぶことができる。


 物言う投資家(アクティビスト)は野蛮人でも企業乗っ取り屋でもないにせよ、招かれざる客と見なされがちである。彼らが不意に現れたら、経営陣と取締役会は不安や恐怖を覚えるはずだ。

 しかし、いまやアクティビストの存在は一般的となっており、資本市場のみならず取締役会においても、その役割が増している。法律事務所ワクテル・リプトンの調べによれば、2013年には200を超える企業がアクティビストの活動の標的となっており、10年前に比べ7倍に増加している。

 アクティビストが取締役会に害を及ぼす例もある。しかし取締役会がうまく管理・統制されていれば、彼らは混乱を招く要因ではなく、取締役にとって経営を導く“資産”となりえる。我々がこう考えるに至った事例として、モトローラとその後継企業であるモトローラ・ソリューションズが挙げられる。同社はわずか5年の間に、通常よりはるかに多い数の物言う投資家たちを取締役会に受け入れてきたのだ。

 1928年に創業したモトローラはカーラジオの製造販売を皮切りに、数十年をかけて多角化し、さまざまな通信技術の分野――アポロ11号に搭載された機器から、ベストセラーとなった携帯電話〈レーザー〉シリーズに至るまで――を開拓してきた。ところが、2000年代半ばには同社の市場は大きく変容しており、CEOのグレッグ・ブラウンと取締役会は2008年3月、分社化の決断を下す。携帯電話とその関連事業を扱うモトローラ・モビリティと、基幹データと通信機器を扱うモトローラ・ソリューションズに分割することにした。

 決断を下したのは取締役会だったが、実現を後押しした人物はカール・アイカーンだった。アイカーン・エンタープライズの創業者兼オーナーである彼は、1985年にトランス・ワールド航空に敵対的買収を仕掛けたことで「企業乗っ取り屋」のレッテルを貼られていた。しかし最近は「物言う投資家」とまともに呼ばれるようになり、アップル、バイオジェン、タイム・ワーナー、USスチール、ヤフーといったさまざま企業の株式を大量に保有。時には取締役会にも乗り込んでくる。

 アイカーン・エンタープライズは2007年にモトローラ株の4%を取得。そしてモトローラは会社分割が取締役会で承認された直後の2008年4月、アイカーンの協力者であるキース・マイスターとウィリアム・ハンブレヒトを取締役会に迎えた。CEOのブラウンは次のように説明する。「分社化を正しい判断だと信じて取締役会に提案し、準備は万全だった。しかしこれはあまりに重大な決断であったため、実行が遅れたり、場合によっては頓挫したりする可能性があった」

 ここで出番となるのが、アクティビストである。彼らの声が分社化を後押しし、実行を促進した。分社化は、ブラウンと取締役会が避けられないと判断して実行に移した歴史的な行動だった。しかし、その実現にあたりブラウンを支えたのはアイカーンの代理人である2人だったのだ。

 グーグルは2011年、60%以上のプレミアムを上乗せしてモトローラ・モビリティを買収した。ブラウンは、従業員数2万3000人、年商80億ドルのモトローラ・ソリューションズの会長兼CEOにとどまった。アクティビストとしての活動で十分な利益を得たアイカーンと協力者たちは取締役会を去っていったが、その後まもなく、新たなアクティビストが現れた。彼らは「モトローラの本来的な価値は投資家から正当に評価されていない」と危惧して、取締役の席を要求した。