米は鮮度が命
【第1回】 2014年11月19日 野地秩嘉

「玄米を精米し、米の旨さを改めて知る」の巻
 短期集中連載・その1

新米をもらったはいいが、
箱を開けたら玄米が…

 10月の終わり頃、秋田の友人(農家)が新米を送ってくれた。これはありがたいと荷物を開けてみたら、中身はすべて玄米だった。ありがたいし、嬉しいのだけれど、私は玄米食ではない。新米ならば白いご飯で食べたい…。

「困ったことになった」
そう思った。

 だって、家庭用精米機は持っていないし、買う予定もない。1万円以上はするうえに、狭い台所に置いておく場所はない。どうしようかと思って、ネット検索したら、「持ち込み精米やってます」という米穀店を見つけた。断っておくけれど、米穀店はどこにでもあるが、必ずしも精米サービスしてくれるとは限らない。米穀店に精米機はあるけれど、たいては大型のそれである。店頭に小型の精米機がある店でなければ、持ち込み精米のサービスはやりたくてもできないのである。

 私が玄米を持ち込んだ店は都立大学にある「スズノブ」。斯界では知られた、こだわり米穀店で、店頭のケースにあるのは玄米だけ。スズノブは玄米を精米して売る店だ。

「持ち込み精米をやっていると聞いたのですが」とレジ袋に入れた2キロの玄米を示したら、メガネをかけた青年は「どうぞどうぞ」非常に愛想がよかった。待つこと3分。ぬかと胚芽を取り去った白米が袋に詰められてきた。 

  袋を持ったら、精米されたばかりの白米はじんわりとあたたかかった。表面を削り落とすときの摩擦熱で米は温度を持つ。私はそのあたたかさに好感を持ち、新米にいとおしさを感じた。

 

米の香りが家じゅうに広がった!
その驚きとショック

 自宅に帰ってきて、精米したコメを研いで、炊いてみた。炊飯の最中のことだ。米の香りが家じゅうに広がったのである。ねっとりとしたあまい米の香り。それが台所だけでなく、子どもの勉強部屋、玄関まで流れていくのであった。私はこれまでに何度も米を炊いた経験がある。日本人なら当たり前だ。しかし、これほど香りを伴った炊飯体験は生まれて初めてだったのである。

 農家の民宿に泊まったことのある人ならば、わかるかもしれない。朝になると漂ってくるあまい米の香り。あれは精米したばかりの米を炊いたものだった。私のうちはあの香りで満たされたのである。 

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野地秩嘉 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。出版社勤務、美術プロデューサーなど を経て、ノンフィクション作家に。食や美術、海外文化の評論、人物ルポルタージュ など幅広く執筆。近著に、「TOKYOオリンピック物語」「イベリコ豚を買いに」「打 ち合わせの天才」「アジア古寺巡礼」「アジアで働く いまはその時だ」など。


米は鮮度が命

今年も新米が出揃い、やはり新米は旨い!と喜んでいる方も多いだろうこの時期、 改めてお米の美味しさとは何かを考えます。偶然、玄米を贈ってもらった著者の 経験を基に、お米について、知っておいて損はない基礎知識をお届けします。

「米は鮮度が命」

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