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アダム・スミス 人間の本質
【第5回】 2014年12月4日
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小川仁志

スミスが説く「心の弱さの本質」を知れば
それをポジティブなエネルギーに変えられる

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スミスが人間の弱さの本質として挙げる「虚栄」とはどのようなものなのか。スミスは併せて、人間がその弱さに歯止めをかける賢明さも持ち合わせていること、虚栄そのもののエネルギーの大きさをポジティブに活かす方法についても述べています。

人間の弱さの本質を考える

 感情の不完全さとは、「人間の心の弱さ」と言い換えることができます。これは、スミスも用いている表現です。そんな弱さがより多くの富を求め、野心を生むというのですが、どこまでいってもそれは利己心であって、そこに他者のことを考える余裕はありません。だから秩序はいつまでたっても不安定なままなのです。

 では、この弱さの本質はいったい何なのでしょうか。スミスは「虚栄」という言葉をよく使います。どうやらこの概念が関係しているようなのです。虚栄の意味について書いたスミスの表現を見てください。

 それでは、人びとのさまざまな身分のすべてにわたっておこなわれている競争は、どこから生じるのであろうか。そして、自分のたちの状態の改善とわれわれがよぶ人生の大目的によって、意図する諸利益はなんであろうか。観察されること、注目されること、同感と好意と明確な是認とをもって注目されることが、われわれがそれからひきだすことを意図しうる、利点のすべてである。安楽または喜びではなく虚栄が、われわれの関心をひくのである。(スミス上P129)

 つまり、人間が競争する動機は注目される点にあって、それが虚栄だといいます。これはまさに人よりよくありたいという野心そのものです。では、どうして人よりよくありたいと思うのかというと、そこに富や地位が関係してきます。

 したがってそれらは、富と地位のすばらしさにくらべると、虚栄のたねとしては妥当性が少ないのであり、そしてこのことに、富と地位の唯一の利点が存在するのである。それらのほうが、人間にとってあのように自然な、差別への愛好をいっそう有効に満足させる。(スミス下P18~19)

 面白い表現ですが、「虚栄のたね」こそが富と地位だというのです。人間が人よりよくありたいのは、やはり富や地位を求めるからなのです。皮肉なことに、愛や自由と並んで、これもまたいつの時代、いつの場所でも変わることのない普遍的な真理なのかもしれません。しかし、だからといって、スミスがそれを手放しで良しとしていたわけではありません。

 富裕な人びと、有力な人びとに感嘆し、ほとんど崇拝し、そして、貧乏でいやしい状態にある人びとを、軽蔑し、すくなくとも無視するという、この性向は、諸身分の区別と社会の秩序を確立するのにも維持するのにも、ともに必要であるとはいえ、同時にわれわれの道徳諸感情の腐敗の、大きな、そしてもっとも普遍的な、原因である。(スミス上P163)

 つまり、人からよく思われたいというときの基準が富であることを、スミスは道徳の腐敗と見ていたのです。人間の不完全な感情に任せると、どこまでいってもそれは富を求めることを最優先することになり、ひいては、道徳の腐敗をもたらす。だから単に、秩序、ルールをつくるだけではだめだということになるのです。それは真に理想的なものにはなりえないからです。見えざる手を自覚して謙虚になるのはもちろん、虚栄に基づく人間の弱さを克服する必要があるのです。

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小川仁志(おがわ・ひとし)

哲学者。徳山工業高等専門学校准教授。1970年京都府生まれ。京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。米プリンストン大学客員研究員(2011年度)。商社マン、フリーター、公務員を経た異色の哲学者として、商店街で「哲学カフェ」を主宰するなど市民のための哲学を実践している。『人生が変わる哲学の教室』(中経出版)、『7日間で突然頭がよくなる本』(PHP研究所)、『ピカソ思考』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。


アダム・スミス 人間の本質

 

『国富論』で知られ、“経済学の祖”といわれるアダム・スミス。彼のもうひとつの著書『道徳感情論』では、経済・社会の構成員である人間の本質を掘り下げて分析されている。そこから、21世紀の資本主義社会を快適に生き抜くための知恵を学ぼう。

「アダム・スミス 人間の本質」

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