起業家に求められる発想や行動力は、ひと握りのカリスマだけに授けられたものだと思われがちです。しかし、盛んに起業にチャレンジする若者を目の当たりにしている著者、マサチューセッツ工科大学マーティン・トラスト・アントレプレナーシップ・センター マネージング・ディレクターのビル・オーレット氏は、それを明確に否定しています。起業家としてのスキルは学んで得られるものだ、とーー。

「起業家にふさわしい発想や行動力は学んで得られるものだと思いますか?」

 これは、起業に関するワークショップや講座の講師を務める際、初回のクラスで私が学生に対してよくする質問です。教室は静まり返り、みな居心地が悪そうに、モゾモゾとするだけ。

 やがて、誰かが行儀よく「そのために来たんです」と言うと、その後も優等生的な発言が続きます。ですが、そのうちに別の誰かが多くの人の正直な気持ちを代弁します。

「いいえ。起業家に生まれついたかどうか、ということなんじゃないでしょうか」

 それで弾みがついたかのように、みな、その理由を力説しはじめます。

 確かに、その気持ちはよくわかります。私自身も、15年前は同じように考えていたからです。しかし今は、手法として学ぶことで起業家になれると考えています。マサチューセッツ工科大学(MIT)や世界中で教えているクラスで学んだ生徒が起業するのを、毎週のように目の当たりにしているからです。

 リチャード・ブランソン、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、ラリー・エリソンなど、起業家として知られる人たちの能力は、私たち普通の人間とはまったく次元が違うように思えます。非凡な才能の持ち主だ、と。しかし、彼らが成功したのは、特別な遺伝子を持っていたからではなく、すばらしいビジネス製品があったからです。

 起業家として成功するのに不可欠なのは、画期的ですぐれた製品です。製品は、物理的なモノだったり、サービスや情報の提供など、多岐にわたります。成功を左右する他の要素もありますが、製品なしにはまったく意味がありません。ただし、このすぐれた製品を作り上げるプロセスは学んで体得できるのです。

 私の著書『ビジネス・クリエーション! アイデアや技術から新しい製品・サービスを作る24ステップ』では、規律ある起業の手法を24ステップとして順に説明していきます。でもその前に、まずは、起業をしようとしたり教えたりする意欲を阻む、起業家にまつわる3つの“神話”に立ち向かいましょう。