私の信念と研究方針を180度変えた
「同じなのに違う」双子の存在

――この研究のために、一卵性双生児の研究をずっとされてきたのですか?

 一卵性双生児の研究は20年前からやっておりますが、実は、最初の10年は彼らが「いかに似ているか」について研究していました。味の好みとか服の好み、または宗教観や笑い方などが、いかに似ているかを研究していました。

 しかし、研究を始めて10年経ったころ、一卵性双生児はこれだけ似ているのにどうしてかかる病気が違うのかと疑問に思いはじめました。1人が乳がんや肺がんになっているのに、もう1人はがんにならないのはなぜだろう、と。細かく調べていくとそっくりな外観の裏では、類似点よりも相違点がはるかに多いことがわかりました。

 まったく同じ環境で育った一卵性双生児がいたとして、なぜ1人が鬱でもう1人が躁なのか、なぜ1人がホモセクセクシャルでもう1人がヘテロセクシャルなのか。そういう面に興味をそそられました。そこでメカニズムや信号を特定するために、エピジェネティクスの世界に入ったのです。

――一卵性双生児の研究でしか解明できないことがありますね。

 そうです。一卵性双生児は自然がつくりだした「完璧な人体実験」。ラボでやろうと思えば、マウスを使って、かけ合わせて繁殖させるしかありませんが、もちろん人間でそんなことをするわけにはいきません。そこで、同じ受精卵から生まれた双子を追跡することで同じような実験をするのです。1人が病気になり、もう1人がならなかった場合、何が起きているのかを特定する、といった具合に。2人のDNAはすべて同じですが、発する化学信号が違います。こうした違いは、我々の想定以上に、人間という生物についてたくさんのことを教えてくれます。

 2人の関係ない人を見て違いを説明しようとすると、あまりにも可能性が多すぎます。その作業は、まるで干草の中で針を探すようなものです。ところが、一卵性双生児を見てなぜ相違点があるのかを説明しようとすると、おもしろい点に焦点を合わせることができ、人間についての理解がより深まります。