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アマデウスたち

須磨久善
失ったはずの未来を与える「神の手」

週刊ダイヤモンド編集部
【第3回】 2007年10月26日
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須磨久善 心不全のなかでも心筋の一部の機能が麻痺する「拡張型心筋症」は不治の病といわれた。メロン大にふくれ上がった心臓は、やがてポンプ機能を失う。肥大した部分を切り落とし、適度の大きさにして本来の働きを回復させるのが「バチスタ手術」だ。

 過酷な手術である。梗塞を起こしている心筋は切りやすいが、正常に近い心筋はもろく、縫糸を締め過ぎれば裂け、怖がって緩め過ぎると血液が漏れる。成功率は絶望的に低い。それでも、臓器移植が十分に進まない日本では試す価値があると、ローマ・カトリック大学をあとにし、帰国した。

 日本で初めて成功させたのは1997年。症例を重ねるうち、機能不全を起こした心筋にも状態のよしあしがあることに気づいた。ならば悪いものだけを切り取ればいい。構造的に切り取れなければ、特殊な合成繊維で間仕切りを作ればいい。このオリジナル手法「SAVE手術」によって、普及が絶望視されていたバチスタは息を吹き返した。なにより、未来を失いかけた多くの患者が救われた。須磨チームが手がければ、死亡率はわずか、5%である。

 バイパス手術では髪の毛より細い縫糸を操る。手の震え一つが生死を分ける。射撃の名手に教えを請い、呼吸法を覚えた。「精神をコントロールすれば、震えは止められる」。海外に遠征すれば、世界中から数百人の心臓外科医が見学に押し寄せる。いつしか「神の手」と呼ばれるようになった。

(ジャーナリスト 古川雅子)

須磨久善(Hisayoshi Suma)●心臓外科医。1950年生まれ。36歳のときに冠動脈バイパス手術の新手法を開発、世界に名を知らしめる。三井記念病院心臓血管外科部長、ローマ・カトリック大学客員教授、湘南鎌倉総合病院院長、葉山ハートセンター院長などを経て、2005年より心臓血管研究所スーパーバイザー。

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