「任せる」と「丸投げ」の違い
3分でもいいから毎日チェックする

竹村 打ち合わせの設計のところで、構造計算をすべしと書いてあって、本当にその通りだと思いました。ゴールにいたるまで何回打ち合わせが必要で、どれぐらいの期間でプロジェクトを終えるのかというのをちゃんと見積もりましょう、と。でも、それができなくて悩むこともあります。

佐藤可士和が打ち合わせにこだわる理由(前編)

 佐藤 もちろん、経験も重要ですよね。新卒1年目ではじめて仕事して、いきなりスケジューリングを組んだりとか、それは無理でしょう。でもある程度経験を積んできたら、プロジェクトマネジメント力がないとダメですよね。

 ゴールから逆算して考えるという方法はどんな仕事でも当てはまると思います。ゴールから考えることで、リスクを認識することにもなると思います。だから僕は常にプロジェクト全体のマネジメントは考えていますね。細かいスケジューリングは現場に任せることが多いけど。

 たとえば新商品のCMの企画を考えるとして、半年間みんなで考えて、よしこの方向で行こうと思ったら、オファーしたタレントさんから「それはできない」と言われることもありますね。もしそのリスクを全く想定していなくて代案が用意されていなかったら、それまで積み上げてきたことがゼロになり、でも商品の発売日は決まっているから締め切り日は変えられないという事態に陥ってしまう。

 これはたとえばの話で現実にはもっといろいろなことが起こりうると思うんですが、そういうリスクを一つ一つ検証した上で、どうやってスキームを組むかということは、仕事をする上でとても重要です。

 スケジューリングが決まるということは、何をやればいいのかが決まるということです。それはかなり大きいことですよ。

佐藤可士和が打ち合わせにこだわる理由(前編)

竹村 なるほど。そうですね。それから、本のなかで「体制図を書いて役割分担を明確にする」という箇所がありました。で、実際に作って、役割を明確にしても、動いていただく、うまく任せるのってすごく苦手なんですよ。上手に動いてもらうコツってありますか?

佐藤 人に任すのって難しいですよね。それで本が一冊書けるかもしれない(笑)。僕の場合は、こまめに見ると言うことかな、と。コミュニケーションを密に取る。任せているんだけど、見ている。

 任すというのと、見なくなると言うのは違うと思います。見なくなるのは「丸投げ」ですよね。「丸投げ」と「任す」は全然違う。僕の事務所には何人かアートディレクターやデザイナーがいて、各々が僕と一緒に複数のプロジェクトを担当しています。で、日々の仕事を彼らに任せているわけです。

 でも、プレゼンテーションの期日があったとしたら、その前日までまったく見ないと言うことはありえない。毎日見ます。たとえ1日3分間であったとしても、見るようにしています。1週間放っておいて2時間見るよりも、毎日3分間だけでもいいから見たほうがいい。

 これは社内のスタッフに対してもそうだし、社外の人に頼んでいても同じです。たとえばスタッフが「まだまとまっていません」と言ったとしても、「まとまっていないものでいいので見せてほしい」と言ったりするし。丸投げと任せるというのはずいぶん違うと思います。

佐藤可士和が打ち合わせにこだわる理由(前編)

竹村 こまめに見るのが重要なんですね。

佐藤 そうです。要するに、仕事は任せるんだけど、脳みそはその人に預けちゃいけない。その仕事を統括しているのは自分だという意識が大事ですね。

竹村 こまめに連絡するとウザいと思われないですか?

(会場・笑い)

佐藤 (笑)。そう思われないように、人によって確認の仕方を考えていますね。この人はメールのほうがいいな、と思ったり、電話のほうがいいな、と思ったり。

竹村 そのあたりは、本にも書かれている「コミュニケーションセンス」ですね。