30のプロジェクトを
同時に動かすには?
竹村 可士和さんはすごくたくさんの仕事をされていますが、たくさんのプロジェクトをそうやってこまめに管理するのは大変なんじゃないかと思うんですが…。
佐藤 それは意外に平気です。たとえば30のプロジェクトが動いていたとするじゃないですか。で、どんな人でも知り合いが30人ぐらいいますよね。その30人の知り合いと久しぶりに会っても、顔も分からなくなったり、「名前なんだっけ?」となったりしはないですよね。1回しか会ってない人なら別ですが…。
それと一緒で、あの案件の次のミーティングはいつだったっけ? とか、そういうことはいちいち覚えていませんが、そのプロジェクトがどういう状況になっているかは個々に把握しています。
たとえが重なりますが、レストランで言えば、細かい料理の名前は覚えていなくても、あそこのレストランの食事はおいしかったな、とか、雰囲気がすごくよかったなというように、自分がその時感じたことは、かなり記憶しています。
それと同じで、仕事もこのプロジェクトが世の中に出たらどう受け取められるかとか、今どういう状況にあるのかということをきちんと感じていることが重要なのです。資料を隅から隅まで記憶することは重要ではありません。
竹村 毎回真剣勝負だと思うから、ちゃんと覚えているんでしょうね。この本に携わって、打ち合わせの質で仕事が変わるって、本当にそうだと思いました。
佐藤 僕は一日にだいたい5、6本の打ち合わせを行っています。多い日は8本とか9本の打ち合わせをこなしています。でも、そういう日はさすがにキツいですね。いくらたくさんの打ち合わせが入っていたとしても、一つ一つの打ち合わせの重要度はみんな高い。だからすべてに真剣勝負で向き合っています。
竹村 あと、印象的だったのは、打ち合わせというのは、仕事を定義づける場だとおっしゃっていて。打ち合わせで発する言葉によって小さくもまとまれば、日本を変えるみたいな大きいプロジェクトにもなりえるというか。
佐藤 いろいろなプロジェクトに携わって、僕もずいぶん勉強させていただきました。やっぱり経営者の方とか、優れたプロジェクトリーダーの方など、すごい人というのはまず捉え方が違うんですよね。それがもしかしたらすべてなのかもしれない。「この仕事をどう捉えるか」ということのスケール感でアウトプットのスケールも決まっていくのかもしれない。
竹村 毎日なにげなくやることであるがゆえに、打ち合わせを変えることで仕事が変わるというのは、確かにそうだと思いました。
佐藤 人生にも通じるところがあるかもしれませんね。毎日の食事も、何気なく食べるのと、身体のことをちゃんと考えて食べるのでは10年後の結果が変わってきますよね。
日本に足りないのは打ち合わせ!?
イノベーションを起こす打ち合わせ方法とは?
竹村 最近、日本はなかなか世界に打ってでられてないと思います。iPhoneのような、すごいものがなかなか日本から出てこないというか。だから、打ち合わせの質を高めることでそこも変わっていくのかも、と思っています。
佐藤 変わると思います。僕は今年1月から、政府が行っている「成長・発展ワーキンググループ」というもののメンバーをやらせていただきました。このあいだ、約1年間の報告書を出したところです。日本が今後も成長、発展を続けていくにはどうするべきかということをメンバーで議論して、それを報告書にまとめて政府に提出する仕事です。
そこで、ざっくり言うと、「人口の安定化」、「イノベーション」、「ブランディング」が大事だという結論になりました。イノベーションが大事なのは分かりますが、ではどうしたらイノベーションは起こるのか、というのは気になりますよね。それについて、メンバーのお一人だった早稲田大学の戸堂康之教授が「イノベーションというのは人のつながりからしか生まれない」と仰っていたのが印象的でした。しかも、違う価値観の人とつながることが最も大事だということですが、これはおもしろい話でしょう。
たとえば、自分のクローン3人と話し合っていても新しいものは何も生まれないですよね。やはり知らない人と話すことで新しい価値観が生まれるので、ずっと同じような人とやっていてもダメだということだと思います。
グローバル化とはそういうことですよね。多様なものとどうつながっていけるかが非常に重要だと。違う意見を持った人をいかに集めてくるかが鍵なわけです。それには多用な意見を持った人でどうやって共有できるルールを作っていくか。そういう場はどこにあるかというと、やはり打ち合わせや会議ですよね。
だから、最初の話に戻るのですが、やっぱり打ち合わせでは多様な意見を出すことが大事というわけです。
竹村 なるほど。
佐藤 日本がこれからよくなっていくのは、打ち合わせ力なんです。政府の人にもぜひ『佐藤可士和の打ち合わせ』を読んでもらいたいですね。
竹村 そうですね。3万部(※11月27日時点の部数)でも、まだまだですね。
佐藤 30万部ぐらいは売れてほしいですね(笑)。
後半では、会場からの質疑応答に答える佐藤可士和氏の様子を紹介します。一般の入場者へのするどい質問に対し、佐藤可士和氏はどう答えるのか。後編もお楽しみに。