アベノミクスの最大の誤算は
円安になっても輸出数量が伸びないこと

みやまえ・こうや
SMBC日興証券 金融経済調査部 日本担当シニアエコノミスト/2002年に東京大学経済学部を卒業し、大阪ガスに入社。企画、営業、保安業務等に従事。2006年財務省へ出向し、大臣官房総合政策課に所属。2008年野村證券入社、金融市場調査部債券市場調査課所属。債券アナリスト兼エコノミストとして、経済・金融政策の分析・予測に従事。2011年4月より現職 Photo:DOL

 私は実質GDP成長率見通しについて、2014年度がマイナス0.9%、2015年度がプラス0.9%(2014年12月12日時点)と予想する。エコノミストの平均的な見方に比べてかなり悲観的な数値といえるが、その最大の要因はアベノミクスが機能していないことだ。

 アベノミクスは「デフレ脱却」と「円高是正」が目的だった。しかし、デフレ脱却と円高是正をすれば日本経済はバラ色かというと、現状、そうではないことが明らかになったと思う。

 デフレから脱却すれば消費が伸びて設備投資が増えるか、あるいは円高是正すれば輸出が伸びて設備投資が増えるかというとそうでもない。いずれも企業の設備投資が重要なポイントになるが、成果は数字に表れていない。

 政府はまだデフレに関して脱却宣言を出していない状況だが、円安が進んだことは事実だ。しかし、最大の誤算は景気を押し上げる「Jカーブ効果」が出ていないことにある。

 Jカーブ効果とは、為替レートが下がると直後には貿易収支が悪化するが、その後、輸出数量が増えて貿易収支が改善するというもの。円安になれば、輸出商品の現地価格を下げることができ、競争力が高まって輸出数量が増えると考えられるからだ。

 だが実際は、円安進行から1年以上経っても輸出数量は伸びていない。つまり、円安が輸出数量の増加に結びつくメカニズムが機能していないというわけだ。円安で輸出数量が増えれば景気全体がよくなるが、その効果は出ていない状況だ。

 一方、世界各国の輸出数量は増え続けている。日本だけが横ばいということは、外需が弱いからという言い訳はできない。原因としては、製造業の現地生産へのシフトが進んでいること、もともと日本の製品の付加価値が高く、大きなシェアを占めているため、値下げをして販売数量を増やす必要性がないこと、長く続いた円高で収益が悪化していたため、収益拡大を優先させていることなどが考えられる。

 企業は2000年代頃から「円安還元」の現地価格値下げを行わなくなっており、Jカーブ効果が期待できなくなっている。