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保田隆明 大学院発! 経済・金融ニュースの読み方

盛り上がる“金持ち”日本企業のM&A意欲は本当に大丈夫か?

保田隆明 [神戸大学大学院経営学研究科准教授、昭和女子大学非常勤講師]
【第15回】 2008年11月27日
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お金を持ちすぎると
無駄な買い物が増えるという仮説

 「現金を溜め込んだ企業ほど、経営陣は無駄な投資や買収をする」というフリーキャッシュフロー仮説というものがコーポレート・ファイナンス論に存在する。昨今の日本企業の旺盛な企業買収事例を見るにつけ、まさにこのフリーキャッシュフロー問題が発生しているのではないか、という議論が大学院の授業の中で出てきた。

 後年になって思い返すと「やるべきではなかった」と評価される類のM&Aのことである。金持ち日本株式会社が金に物を言わせてバンバンと企業を買収しまくったのは、バブル絶頂期のお話。多くは高値掴みの失敗に終わっている。有名な事例では松下によるアメリカ映画会社買収や三菱地所のロックフェラーセンター買収などがある。

薄れゆく
借入金有効活用論

 つい1年ほど前までは、欧米の企業が借入金を「有効活用」して、せっせと事業投資や買収を進める一方、日本企業は借入金の有効活用ができていない、と海外投資家からよく指摘されていた。資本コストの観点で考えても、株式による資金調達より借入金による資金調達のほうが低いのだから、資本コストの低減のためには負債比率を上げるべきというのがセオリーである。電源開発に対してTCIが迫っていたのもそのような理由の元での負債比率の向上であったし、借入金をもとに自社株買いをするという企業財務戦略も日本企業の間でもちらほらと登場し始めていた(別途連載中の「ザイ・オンライン」記事 )。

 そして、もし手元に溜め込んだ現金の使い道がないのであれば、株主に配当、または自社株買いという形で戻せ、というのが株主、特に海外投資家がよく言うことである。その裏には、無駄に会社に現金をためておくと、経営陣がろくでもないことに使いかねないという懸念、不信が投資家の中にある。これぞまさにフリーキャッシュフロー問題である。

日本企業は意図的に
現金を溜め込んできたのか?

 日本の株式市場における投資家と企業の攻防は、ここ5年ほどは、このフリーキャッシュフロー仮説に依拠していた。しかし、それが昨今の金融不況によって、資金調達環境が激変し、お金を借りることが極端に難しくなった。現金を豊富に持っている企業が強い時代、まさに Cash is King の時代が到来したのである。今まで外国人投資家になんと言われようがせっせと現金を溜め込んできた日本企業の相対的な優位性が高まったのだ。今の時代に、「借入金を有効活用せよ」と声高に叫ぶ投資家を探すのは難しい。

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保田隆明 [神戸大学大学院経営学研究科准教授、昭和女子大学非常勤講師]

1974年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科准教授、昭和女子大学非常勤講師。リーマン・ブラザーズ証券(東京/ニューヨーク)、UBS証券東京支店で投資銀行業務に携わる。その後、起業、投資ファンド運用等を経て、10年より小樽商科大学大学院准教授、14年より昭和女子大学准教授、2015年9月より現職。雑誌、テレビや講演で金融・経済をわかりやすく解説する。著書は「あわせて学ぶ会計&ファイナンス入門講座」「実況LIVE 企業ファイナンス入門講座」(ともにダイヤモンド社)ほか多数。早大院商学研究科博士後期課程満期退学。
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保田隆明 大学院発! 経済・金融ニュースの読み方

仕事と両立しながら大学院に通い始めた保田隆明が、大学院で学ぶからこそ見えてきた新しい視点で、世の中の「経済・金融ニュース」をわかりやすく解説する。

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