2014年12月26日の夕方から夜にかけ、開催された社保審・生活保護基準部会。その直後、大手メディアによって「住宅扶助と冬季加算は引き下げ」と大々的に報じられた。

本当に、引き下げは既定路線なのだろうか? 厚労省事務局の説明後に行われた部会議員たちによる議論では、引き下げに賛成する部会議員は1人もいなかった。
(※「住宅扶助・冬季加算の引き下げをめぐる攻防(上)」はこちら

引き下げ方向への見直し
賛成する部会委員は皆無

住宅扶助・冬季加算の引き下げをめぐる攻防(下)<br />減額へと誘導する厚労省の“統計マジック”取材陣は多くはなく、TVクルーのほとんどは冒頭の「頭撮り」以後は退出していた
Photo by Yoshiko Miwa

 今回、部会委員のうち、新自由主義を支持していることで知られる大竹文雄氏(大阪大学教授・経済学)、筆者の理解では「生活保護利用者・世帯の個々に対する給付を充実させる」という方向性にはあまり積極的でない宮本みち子氏(放送大学教授・社会学)は欠席だった。

 出席していた委員のうち、引き下げ方向への見直しに反対というわけではなさそうなのは、栃本一三郎氏(上智大学教授・社会福祉政策論)のみであったが、栃本氏は、

「粛々と進めていくのが政策。相対化されるものではないというのは分かる。政策というものは、一歩一歩進めていくことが必要。その中でギリギリを狙うことも必要」

 と述べたのみであった(以下とも、部会委員発言は筆者のメモによる)。

 道中隆氏(関西国際大学教授・社会福祉学)は、悪質な不良住宅に居住している生活保護利用者に対する転居指導について、「まず生活保護法27条による指導を」と述べた。生活保護法27条「保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる」というもので、2項・3項に「被保護者の自由を尊重」「強制し得るものと解釈してはならない」とある。ケースワーカー経験もある道中氏は、「生活保護利用者自身の生活と人生を向上させる」という共通の目的のために、利用者本人とケースワーカーが協力できる可能性があるのなら、それが優先されるべき、と言いたかったのだろうか? あるいは、「住宅扶助減額で『いぶり出す』という方法はいけませんよ」とクギを刺したのだろうか? 真意は筆者にはわからない。

 園田真理子氏(明治大学教授・建築学)は、

「今、日本はとんでもない供給過剰状態です。今回(検討に使用したデータ)は平成20年のものです。速報値は平成25年のものが出ていて、空き家率、13%、800戸以上です。その半分は、賃貸住宅です。現在の生活保護世帯の三倍の住宅ストックがあるわけです。需給環境が歪んでいます」

 と切り出し、

「住宅マーケットは、各地域ごとに異なる形成をされています。上げ下げでどうなるかは、ミクロに見ないとわかりません。今回の(住宅扶助)見直しは、賃貸住宅の空き室が非常に増えているという現状で、フローの家賃にどう(影響が)でてくるか、予測付きません」

 と指摘した上、

「空き室問題との関係も、どこかに書いてください」

 と述べた。原因も現状も今後も、「生活保護の住」にとどまらない。日本の住宅政策の問題なのだ。

 影響が甚大になる可能性については、山田篤裕氏(慶応大学教授・労働経済学)も、

「住宅扶助の特別基準を下げることによって、少なからぬ生保世帯が影響されて、全体の家賃が下がります。それを参照して、住宅扶助が下がります。そして住宅市場に壊滅的な影響があるかもしれません、循環参照の問題を考慮すべき」

 と述べた。これらの問題について、厚労省の事務局は、

「市場への影響、考えています。これから反映、見直しをした場合、その影響をよく見ながら検討していく必要があると考えます」

 と回答した。どのように影響を評価するのか。いつ再検討するのか。それについては全く答えなかった。