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失敗は「そこ」からはじまる
【第1回】 2015年1月19日
著者・コラム紹介バックナンバー
フランチェスカ・ジーノ,柴田裕之

なぜCEOは「貴重な助言」を無視するのか?
――ウォルマートとグリーンスパンの「避けられた失敗」

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綿密に計画を練り上げて意思決定をしたはずなのに、気がついたら違う行動をしていた、という経験はないでしょうか? 勉強やダイエットを決意したのに翌日にはサボり、老後のために立てた貯蓄計画は日々の散財でダメになり、顧客ロイヤルティを高めるための新しいマーケティングプランはまったく逆の結果に終わり……。
そう、私たちは往々にして、当初思い描いた計画から「脱線」し、そのせいですぐそこにあったはずの成功を逃してしまいがちです。
「私たちの意思決定は、なぜこれほど頻繁に脱線してしまうのだろうか?」
「どうすれば、軌道から外れないようにできるのか?」

『失敗は「そこ」からはじまる』でこの疑問に答えた、研究者にしてコンサルタントが、「あと一歩」でしくじってしまった人や企業の事例から解き明かした意思決定の原則から、「とっておき」をピックアップしてご紹介します。

なぜ「世界のウォルマート」はドイツで大失敗したのか?

 あなたはきっと、こんなふうに考えていることだろう。

 実生活では、重大な決定(老後のための蓄えをどう投資するか、提示された働き口を受け入れるかどうか、恋人にはどうプロポーズするのが最善か、といった決定)を下す際には、他者の有益な助言を無視したりはしない。その決定について自分と同等、もしくはそれ以上の知識を持った人の意見には耳を傾けるだろう。彼らに相談し、それぞれ独自の意見を求め、慎重に検討し、自分の考えと彼らの意見を合理的に比べてから、意思決定を行うはずだ、と。

ところが実際には、そうしないことは請け合いだ。

 それを裏づけるために、CEO(最高経営責任者)らの経営陣が同僚や同輩、その他の関係者の助言に耳を貸さず、痛い目に遭った話が新聞でしばしば報じられるという事実を挙げよう。

 たとえば華々しい成功を収めていたウォルマートは2006年、ドイツでは不首尾に終わった。ウォルマートは一見すると無敵のビジネスモデルを携えてドイツに進出したが、そのモデルはたちまち行きづまり、同社はドイツ国内の店舗を赤字覚悟で売却しはじめた。目を覆うような惨状だったので、ウォルマートの大失敗は、リーダーはこうふるまってはならない例としてさまざまな教科書に取りあげられているほどだ。

 ウォルマートはドイツで数々のミスを犯した。だが私の目を引いたのは、ウォルマートのCEO、H・リー・スコットら、上級のエグゼクティブが、営業時間や価格設定に関する法律を含め、ドイツの法律や企業文化の複雑さにまつわる、ドイツ人中間管理職たちの助言を無視した事実だ。ドイツの管理職たちは、ウォルマートの経営幹部よりも地位は低かったが、ドイツで物事がどう行われるかについては、明らかに知識も経験も豊富だった。それにもかかわらず、彼らの助言は無視された。

 これはビジネスの世界に限ったことではなく、助言を無視したのが高くついたという話は、政治、医療、教育など、ほかの分野でも見つかるし、個人の経験にも及ぶことは言うまでもない。たいていの人は、これまで何らかの折に、禁煙するようにとか運動をするようにとかいった医師の助言を無視した経験がおそらくあるだろう。同様に、ワシントンの政治家たちは、予算編成で大鉈を振るうようにとか、互いにもっと協力するようにとかいった助言を繰りかえし無視している。

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フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)
ハーバード・ビジネススクールの経営学准教授(交渉術・組織・市場ユニット)。
イタリア出身。経済学・経営学の博士号(Ph.D.)を持ち、ハーバード大学、カーネギーメロン大学等での講師を経て現職。他にも、ハーバード・ロースクールの交渉学プログラム、及びハーバードの「心・脳・行動イニシアティブ(Mind, Brain, Behavior Initiative)」にも正式に関わっている。
意思決定や社会的影響、倫理観、モチベーション、創造性と生産性などを研究対象とし、経済学や経営学、交渉学といった枠組みを超え、社会心理学、行動経済学、組織行動学など、幅広い研究者と積極的に共同研究を行っている。研究成果を広く一般に伝えることにも注力しており、心理学と経営学の一流学術誌だけではなく、「ニューヨーク・タイムズ」、「ウォールストリート・ジャーナル」、「ビジネスウィーク」、「エコノミスト」、「ハフィントンポスト」、「ニューズウィーク」、「サイエンティフィック・アメリカン」など、さまざまな一般向け刊行物にも取りあげられている。
また、得られた組織行動や意思決定の知見をもとに、企業や非営利団体のコンサルタントとしても活躍している。
マサチューセッツ州ケンブリッジ在住。
http://francescagino.com/

柴田裕之(しばた・やすし)
1959年生まれ。翻訳者。訳書にジェレミー・リフキン『限界費用ゼロ社会』(NHK出版)、ウォルター・ミシェル『マシュマロ・テスト』(早川書房)、アレックス(サンディ)・ペントランド『正直シグナル』(みすず書房)、ジョン・T・カシオポ他著『孤独の科学』(河出書房新社)、マイケル・S・ガザニガ『人間らしさとはなにか?』(インターシフト)、サリー・サテル他『その〈脳科学〉にご用心』、ダニエル・T・マックス『眠れない一族』(以上、紀伊國屋書店)、ポール・J・ザック『経済は「競争」では繁栄しない』、フランチェスカ・ジーノ『失敗は「そこ」からはじまる』(以上、ダイヤモンド社)ほか多数


失敗は「そこ」からはじまる

コカ・コーラ、サムスン、ヤフー創業者……
綿密に計画したはずなのに、
「あの人、あの会社が、なんでそんなことを?」

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綿密に計画を練り上げて意思決定をしたはずなのに、気がついたら違う行動をしていた、という経験はないだろうか?
新しいキャリアを切り拓くために勉強しようと決めたのに先延ばしにし、ダイエットを決意したのに翌日にはサボり、老後のために立てた貯蓄計画は日々の散財でダメになり、顧客ロイヤルティを高めるための新しいマーケティングプランはまったく逆の結果に終わり……。
そう、私たちは往々にして、当初思い描いた計画から「脱線」し、そのせいですぐそこにあったはずの成功を逃してしまいがちだ。そしてその結果にがっかりし、やる気を失ってしまう。

私たちの意思決定は、どうしてこれほど頻繁に脱線してしまうのだろうか?

どうすれば、軌道から外れないようにできるのか?

過去10年、この疑問に答えることに的を絞った研究プロジェクトをいくつも行い、人間心理と組織行動の両方を究めた新進の研究者にしてコンサルタントが、意思決定の失敗の本質、そしてブレずに成功するための「9つの原則」を読み解く。

「失敗は「そこ」からはじまる」

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