各国と比べて突出した残業時間の多さ、職務範囲の曖昧さなどさまざまな理由から、国内外を問わず「日本企業のホワイトカラーは生産性がよろしくない」としばしば指摘される。ではなぜ、日本企業で生産性向上がうまくいかないのか。その実現にあたっては、3つのポイントがあるという。ベイン・アンド・カンパニーの連載「ホワイトカラーの生産性を高める」最終回。

 

 これまで7回にわたってホワイトカラーの生産性向上のテーマで話を進めてきたが、その最終回として、日本企業で適用する際の留意点について考えたい。日本企業でホワイトカラーの生産性向上を実現するためには(1)外科治療、(2)一気呵成、(3)企業文化の改革の3つが鍵となる。

(1)外科治療

長谷部 智也
(はせべ・ともや)

ベイン・アンド・カンパニー、東京オフィス パートナー
オペレーションの再設計、営業生産性の向上、顧客ロイヤルティの醸成、コスト削減、など業績改善の分野で多岐にわたるプロジェクトを手掛けている。ベイン東京オフィスの業績改善プラクティスのリーダー。

 ホワイトカラーの生産性向上の考え方を実践的に進めるうえでは、各部署から出てくるボトムアップの改善アイディアを集約し、それを各部署での自律的な改善活動に繋げるという考え方がある。しかし、ボトムアップの運動論を追求しすぎると、ともすると必ずしも短期的な効果が望めない精神論や、意識改革に傾倒しすぎてしまうリスクがある。要は、仕事のやり方がシンプルなものに再定義されればよいわけで、現場の視点や現場の制約条件を汲み取りつつ、ある程度外科治療的な考え方で、第三者視点から短期間で最適解を出す方が大きな効果が得られるケースが多い。

 典型的な方法としては、業務の棚卸しを網羅的に行ったうえで、各業務について、(1)業務の簡素化・廃止 、(2)業務プロセスの改変・自動化 、(3)業務の集約化・拠点統合、(4) アウトソーシング 、(5)冗長人員の適正化、の5つの視点で効率化の可能性を検討する、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)のアプローチがある。これは工場の生産ライン等だけではなく、ホワイトカラーの業務や本社部門の各機能の生産性向上においても有効なツールである。

(2)一気呵成

 生産性向上のイニシアチブを数多く積み上げ、その実行を各組織順繰りと、例えば3~5年もかけてやってしまうと、組織が「改革疲れ」を起こしてしまう。長い時間をかけると、それはもはや改革ではなく、日常のルーティン活動となってしまう。生産性向上のイニシアチブは短期間、できれば全てを1年程度で「一気呵成」に行ってしまうことが望ましい。その方が、トータルで見た組織の負担感は少ないはずである。

 一気呵成に進めるうえで特に重要なのが、危機感の醸成と社内のキーパーソンの巻き込みである。危機感の醸成は、「なぜ今、生産性向上イニシアチブを進めなければならないのか」という、その必要性に対する全社的な納得感につながる。