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『統計学が最強の学問である[実践編]』発刊記念対談
【第10回】 2015年3月12日
著者・コラム紹介バックナンバー
西内 啓

統計職員の意識を変えたベストセラー
【特別対談】総務省統計研修所長・須江雅彦氏(1)

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シリーズ40万部を突破したベストセラー『統計学が最強の学問である』の著者・西内啓氏が、統計学をテーマにさまざまなゲストと対談するシリーズ連載。日本の公的統計の要である、総務省統計局の前局長、現研修所長の須江雅彦氏です。統計局・統計研修所では3月17日から、政府としては初の試みである、社会人がデータサイエンスを学ぶためのオンラインコースを始めます。講座を始めるにいたった背景や狙いについてうかがいました。(構成:崎谷実穂)

統計局がデータサイエンスのオンライン講座を始めたわけ

西内 この春、統計局・統計研修所では、gaccoというオンラインの学習プラットフォームで、データサイエンスの講座を開始するんですよね。

須江雅彦(すえ・まさひこ)総務省統計研修所長。総務大臣官房統計情報戦略推進官。 東京都出身。中央大学法学部法律学科卒業後、総理府入府。内閣官房、官房副長官秘書などを経て、労働省職業安定局、通商産業省産業政策局に出向。総理大臣官邸報道室長、内閣広報室内閣参事官、内閣府参事官、大臣官房人事課長、日本学術会議事務局次長(イノベーション25担当大臣特命室次長)等を歴任し、総務大臣官房審議官、財務大臣官房審議官を経て、2011年に総務省統計局調査部長、2012年に統計局長に就任。2014年より現職。

須江 はい。データサイエンス・オンライン講座「社会人のためのデータサイエンス入門」が3月17日から始まります。

西内 私も、導入部分の「統計データの活用」という講義を担当させていただきましたが、そもそも、なぜ統計局が、こういった講義動画の配信を行なうことになったのでしょうか?

須江 社会における統計リテラシーを高めたいという思いがあったからです。日本社会は諸外国に比べて、データを利活用することにおいて立ち遅れているところがあります。口では「エビデンス(科学的な証拠)をベースに」と言いながらも、実際に決断するときには勘に頼ったり、周囲の顔色をうかがって反対が少なそうな方にしたりすることもあるでしょう。今の世界は、データに基づいた最適な意思決定ができるかどうかが、経済的・社会的に大きな差を生んでいくと考えられます。統計リテラシーが、経済発展、社会発展を支えるベースになるんです。

西内 統計局では、調査をして統計を出すだけでなく、統計知識の普及という役目も担っているんですね。

須江 有益な統計を更に有効に活用してもらうためには、こういった普及・啓発活動も必要だと思うんです。統計と統計的思考力をビジネスでも更に使っていただければ、新しい製品を生み出したり、マーケットをつくりだすところにも寄与できるんじゃないかと。そこで、データサイエンス力の高い人材育成に取り組むことにしました。

西内 なぜ、オンライン講義だったのでしょう?

須江 ニュージーランドで数年前、公的統計の授業をインターネット上に流したんですよ。それが、我々の世界で話題になりまして。もともと統計研修所では行政職員に対して研修を実施していましたし、学習コンテンツをつくる素地はある。そこで、「うちでもできるんじゃない?」と考えたんです(笑)

西内 日本でこの講義をやるのなら、統計研修所以上にふさわしいところはないと思います(笑)。gaccoでやろう、ということになったのは?

須江 統計局のホームページ上だと、いろいろ制約があって動画で講義を流すのが難しかったんです。そんな折に、JMOOC(Japan Massive Open Online Courses)の動きを知って、gaccoなどのプラットフォームがちょうどいいんじゃないかと思いました。YouTubeのような動画なら、スマートフォンでいつでもどこでも見られます。時間も短く区切れるので、学校の講義のように長時間拘束されることもない。自分で進捗管理もできる。大学の教養課程くらいの水準の教育は、いずれこれで十分できるようになるのではないでしょうか。

西内 アメリカなどのMOOCでは、いまや世界最高水準の大学の授業が見放題ですしね。

地方の統計課の職員に、光があたるきっかけになった

須江 また、こうして我々が一歩を踏み出せたのは、西内先生のおかげでもあるんです。

西内 えっ、そうなんですか?

須江 データサイエンスを広めて、社会の統計リテラシーを上げていきたいということを考え始めたちょうどそのころに、先生のご著書『統計学が最強の学問である』が出たんです。これはもう、統計担当者にとっては非常に胸のすく思いがする本でした(笑)。

西内 そうだったんですね。うれしいです。

須江 常日頃、統計学の知識は社会で広く使われているのに、それが十分認識されていないなと感じていたんです。地方の統計課は、比較的地味な存在でした。まだ統計局は国勢調査、CPI(消費者物価指数)や失業率など、ニュースなどで取り上げられるデータも出しますので、社会とのコミュニケーションが多くあるんですけど、実際に調査をする地方の担当職員にしてみると、やりがいを感じづらかったんです。

西内 うーん、そうかもしれませんね。すごく大事な仕事なのですが。

須江 そうなんです。自分たちが集めたデータが、社会にとって役立っているという認識が広まれば、仕事の意義も感じられますよね。先生が「統計学が最強の学問だ」と断言してくださったおかげで、県庁の中でも統計分析力のある統計課の職員に光が当たるようになりました。本の感想として「統計の仕事をやっていてよかった」「励みになった」という声が、各県から上がっていました。

西内 それは、著者冥利に尽きる話ですね。

須江 日本の経済指標などは、他国に比べても水準がかなり高いんですよ。でもそのことを、自分たちの言葉で十分表現できているかというと、統計データをつくることに一生懸命で、外に向かっての情報発信がまだ不十分なんです。統計はその数字がどういう意味を持つのかということも伝えられて、初めて役に立つものです。そこには、伝える努力が必要なんです。

西内 そうですね、どんなデータやモデルを使っているのかさっぱりわからないような「経済アナリストの予測」も世の中にあふれていますからね(笑)。

須江 データを出す場合には、説明もある程度つけて、データをきちんと出す。こうしたコミュニケーションはすごく大事だと思っています。少子高齢化だって、現在のようになることは何十年も前からデータを見れば明らかだったのですが、認識は十分ではありませんでした。どれくらいの速度で、これからの社会がどう変化するのか、そういったギャップを埋めるには、やはり社会全体の統計リテラシーを上げていくことが必要だと思います。自分たちの社会の有り様が見えてきたら、次にどうしていこうかという意見も出てきますしね。

西内 そのためのオンライン講義でもある、と。

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西内 啓(にしうち・ひろむ)

東京大学医学部卒(生物統計学専攻)。東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、現在はデータを活用する様々なプロジェクトにおいて調査、分析、システム開発および人材育成に従事する。著書に『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)、『1億人のための統計解析』(日経BP社)などがある。


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