おむすびを食べ、
自殺を思いとどまった青年の話

 そもそも龍村監督がわたしに映画の出演を依頼されたのは、このおむすびを食べて自殺を思いとどまった青年がいるというエピソードをお聞きになったことがきっかけでした。

 その青年というのは、もう何もかも嫌になった、生きているのが嫌になり、すべて身の回りのものを身辺整理して、黒装束でうちにきたんです。
 死ぬところまで決心していたところに、家族から、「とにかく行くだけでいいから行ってくれ」とわたしのところに寄こしたの。

 それで夕方に着き、部屋に通して自分の身の上を話を始めたんだけど、もう隣の部屋に聞こえるぐらい大きな声で泣いて泣いて……。もちろん食事ものどを通らない。
 それで夜中になってしまったから、「今日はもう休みましょう」と休んだの。

 翌日も「朝食を食べないで帰ります」と言うの。家の人に連絡すると、「何があってもこちらでは覚悟していますから帰してください」と言います。 

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 でも、昨夜から何も食べていないから、おなかが空くだろうと思って、おむすびを握ったわけ。

 わたしはおむすびをラップでくるむと、水分が出ておいしくなくなるから、タオルかキッチンペーパーにくるむようにしているのですが、そのときもタオルに包んで持ってもらったの。

家の方からの驚きの電話

 玄関でさようならでは、わたしも心配だったから駅まで送っていき、それでお別れしたのですが、戻ってしばらくしたら家の人から電話がありました。

「行ったときとは別人のように、すっかり元気になって帰ってきたけれど何があったんですか?」

 そう言われて、別に何をしたわけでもないけれど、何がそんなによかったのだろうと、こちらでも不思議に思っていました。

 その後、その方はすっかり元気を取り戻し、社会のために役に立ちたいと大きな講演会を開いたの。
 そこで本人が話すことには、帰りの電車の中でもらった包みを開いたら、おむすびがタオルに包まれていたって。
 こんなバカな自分のために、そこまで心遣いをしてくれる人がいるんだと。
 そこまで信じてくれる人がいるんだと思ったときにバッと変わったって。