英国でも深刻なうつ病や自殺問題
「精神疾患による経済損失」は約7.8兆円とも
厚労省は今年9月、うつ病や自殺による日本の経済損失額が、年間約2.7兆円に上るという推計結果を公表した。
毎日新聞の報道によると、経済損失額の内訳は、09年に自殺した15~69歳の2万6539人が働き続けた場合に得られたはずの生涯所得額が1兆9028億円。うつ病による生活保護の支給額が3046億円。うつ病の医療費が2971億円。うつ病で休職したことによる賃金所得の損失額が1094億円――などとなっている。
さらに、こうした損失がなければ、2010年度の国内総生産(GDP)は、約1.7兆円引き上げられたはずだと試算する。
もちろん、それらの所得が生み出されていたならば、その分の税収も見込めたに違いない。こうしてみると、国がうつ病や自殺の対策に力を入れることは、結果的には懸案の景気回復にもつながるのではないかと思えてくるのだ。
ただ、この損失額の推計はあくまでも、うつ病や自殺に限定したものであり、精神疾患全般にわたるものではない。
先ごろ、長妻昭・前厚生労働大臣に対し、日本の精神保健医療の改革を訴える提言を手渡した、当事者、家族、医療者らでつくる「こころの健康政策構想実現会議」(座長・岡崎祐士・東京都立松沢病院院長)事務局長の西田淳志氏(東京都精神医学総合研究所研究員・医学博士)によると、英国では、2007年の「精神疾患による経済損失額」は、なんと約7.8兆円に上るという。
ちなみに、英国のうつ病の経済損失額は約1.2兆円であることから、この「精神疾患による経済損失額」を人口規模、GDPといった日本の経済規模に換算すると、およそ2倍の15.2兆円になるという推計もある。
ここでいう精神疾患の中には、統合失調症だけではなく、うつ病や不安障害、パーソナリティー障害といった、すべての疾患が含まれている。「引きこもりの人たちの背景にも、こうした心の問題が大きく関係している」と西田氏は指摘する。