筆者程度の年齢(50代)ともなると、健康診断の結果が出た直後でなくとも、コレステロール値が高いだの、血糖値がどうのこうの、BMIが云々かんぬん……といった話題には事欠かない。
中高年の多くが「数値」を気にしている一方で、通院したり薬を飲んだりしなければならない基準については、何か釈然としない人も少なくなさそうだ。その裏からは、陰謀論とまではいかずとも、「製薬会社が儲かるように、基準値は厳しめに設定されているんじゃないの?」との懐疑心が透けて見える。
じつは、もう十年近く前のことだが、筆者は、降圧剤の新薬発売に伴う医師向け資料の作成に関わったことがある。その中には当然、開発に関わった大学教授のコメントも載せるわけだが、その教授が「血圧はもっともっと下げる必要がある。今の基準値ではまだまだ……」と、まるで御用学者のように強調していたことを記憶している。
そもそも、性別と年齢だけで分類した集団の健康度を、一つの基準で計ること自体、無理があると言えば無理がある。
そんな中で、昨年4月、人間ドック学会などがつくる専門家委員会は、「現在の基準で正常とされている数値の範囲を大幅に“緩めるべき”(強調は筆者による)」だとする調査結果を発表した。
ただ、この「緩めるべき」は報道する側の解釈でもあり、別のメディアの中には「広げます」としているところもある。
新たな基準は“健康な人”
約1万5000人を分析したもの
まず、従来の基準範囲を調査・発表した動機、調査対象・方法などの概要は、以下で確認できる。
◎国民の皆様へ 基準範囲についてのご説明 ・・・(1)
その主旨をなるべく簡潔にまとめると以下のようになるだろう。
・問題意識は「基準範囲」自体が適正かどうかではなく、医療機関によって「基準範囲」がまちまちであることに基づき、それらを統一するための第一歩と位置づけている。
・そもそも「基準範囲」とは、「“他の一般的な検査に異常がなく飲酒は1日にビール1本相当以下で喫煙もしない健康人”の測定値分布の中央部分95%をカバーする範囲」のことである。
・したがって、予防医学的に用いられる閾値(この水準を超えると危険、リスクが高い)及び「臨床判断値」とは自ずと異なる。