構造改革を経て多くの日本企業が過去最高益を記録している。とはいえ、未来に目を向ければ「持続的成長の実現」は依然として大きな課題だ。そして、持続的成長を可能にする鍵は、時代を先取りして自らが変革し続けることができるかどうか、すなわち組織の「自己変革力」である。
前回に引き続き、「KAITEKI経営」をコンセプトにサステナビリティ(持続可能性)を強く意識した経営に取り組む三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長にお話を伺った。

グローバルアジェンダを解決することは
最終的には利益につながることを示したい

松江 小林さんの3次元での数量化された経営モデルは非常にユニークですが参考にされた会社があったんでしょうか。

ROE経営のような単純な考え方は危険 <br />三菱ケミカルHDの「多変数関数」論小林喜光(こばやし・よしみつ)
三菱ケミカルホールディングス会長 。1946年山梨県生まれ。71年東京大学相関理化学修士課程修了。ヘブライ大学(イスラエル)物理化学科、ピサ大学(イタリア)化学科留学を経て、74年三菱化成工業(当時)に入社、2005年三菱化学常務執行役員、07年三菱ケミカルホールディングスと三菱化学の社長に就任。15年4月より三菱ケミカルホールディングス会長。理学博士。

小林 こんなことを発想した人がそもそもいないですから参考事例はありませんよ(笑)。私がいろんな人と議論しながら、この10年間考え続けてきたことの集大成です。

 私は基本的にサイエンティストですから、経営をサイエンスとして見ればこうなるはずだと仮説を立てて、会社を使って実験をやっている。だから評論家や学者みたいに訳のわからないこと言うんじゃなくて、実際のデータをベースに議論したい。しかし、これは時間がかかる。一度ここまで動きだせば、もうみんなが自発的にやってくれますけれど。

松江 御社が実践されてきたデータに基づくと、コンセプトの展開に手ごたえを感じておられるわけですね。

小林 そうですね。2011年ごろから今まで3次元での経営管理を積み重ねてきて、MOEとMOSの数値が有意に相関するデータが出てきた。最初は、MOS(Management of Sustainability)でCO2を減らすのは、コストがかかるからMOE(Management of Economics)の儲けに対してネガティブだと思い込んでいた。

 ところが実績を調べると、MOSがいい会社のほうがMOEの営業利益も高い。当然CO2削減はコスト的に少しネガティブな面もあるけど、MOS指標の中には、新商品化率が高いとか、快適な生活に貢献する製品の割合が高いとか、MOEと必ずしも矛盾しないファクターもある。社員の健康だとか、事故を起こさない、コンプライアンスを重視するとかいったMOS指標も含めても、MOSとMOEはだいたい正の相関関係になっています。決してネガティブな相関ではない。

 最初はみんな間違いなくMOS重視はコストアップをもたらしてMOEには負の効果が出るだろうと思っていた。しかしそれは誤解だった。だからグローバルアジェンダを解決することは最終的には企業の利益に直結するという実績を集積して、世の中に示していきたいんです。

松江 興味深いです。私もイメージとしては長期では両立するものの短期的にはタイムラグがあるイメージでした。

小林 そうでもないと思いますよ。特に「コンフォート」の指標では、かなり正の成果が出てくるような気がします。