海外と比較して、日本の生活保護基準を「高すぎる」「ゼイタクすぎる」とする意見は多い。「米国をモデルとして、もっと引き下げて就労圧力をかけるべき」という見方も根強い。その米国では、日本の生活保護制度はどのように見られるのだろうか? 筆者が米国で2015年2月に行った、生活保護基準に関する学会発表の様子からレポートする。
「低福祉」の米国から
日本の生活保護制度はどう見える?
「日本の生活保護受給者って、ずいぶん少ないんですね」
「日本の生活保護基準って低いんですね。豊かな国だから、もっと高いのかと思ってました」
「日本の生活保護受給者って、病気を抱えていたり、障害者だったり、母子世帯だったり、不利な条件を持つ人が多いんですね。にもかかわらず、多くの人が働いているんですね」
以上は、米国の人々が、日本の生活保護制度に関して寄せたコメントだ。
2015年2月15日、米国サンノゼで開催されたAAAS(米国科学振興協会)の年次大会で、私は日本の生活保護制度に関するポスター発表を行った。AAASは科学雑誌「Science」の発行元でもあり、年次大会の内容は、やはり自然科学に重みが置かれている。しかしグローバル化が進展しつづける現在、「自然科学だけのテーマ」と言える問題は、年々、減少しつつある。国境を越え分野を越えた共同研究の動きも活発だ。
ポスターセッションは2月14日・15日の2日にわたって開催され、15日は「環境とエコロジー」「社会の中の科学」「社会科学」「物理学」「応用科学・工学・数学」の5分野の発表が同時に行われた。
私は「社会科学」分野で、「生活扶助相当CPI」に関する発表を行った。生活扶助相当CPIは、2013年1月に厚労省が発表した独自の物価指数で(物価指数=Consumer Price Index=CPI)、2013年8月・2014年4月・2015年4月の3回にわたる生活扶助引き下げの根拠ともなった。厚労省は、生活扶助相当CPIに物価下落が見られることを主な理由として、生活保護基準の引き下げを妥当としている。しかし国会での質疑・生活保護利用者たちによる訴訟などを通じて、生活扶助相当CPIが根拠に乏しく、生活保護利用者たちの生活実態を反映しておらず、「引き下げやむなし」という結論を導くために恣意的に設けられた指標である可能性が明らかになりつつある。
2014年4月より、私は立命館大学・先端総合学術研究科の一貫制博士課程3年次に編入しており、生活保護制度の研究を行っている。研究テーマを一言で言うと、「生活保護をバッシングすると、経済状況にどのような影響があるか?」だ。
まず研究の第一弾として、指導教員たちの指導のもと、生活扶助相当CPIに関する論文を執筆して国内の査読付き論文誌に投稿し、続いてAAAS年次大会のポスター発表に予稿を投稿した。残念ながら論文誌の方は掲載に至らなかったが、内心「難しいんじゃないかな?」と思っていたAAAS年次大会の方は無事に審査を通過し、発表の運びとなった。