外資系企業の事業責任者が日本企業に転職した場合、まず驚くのが戦略性の差であろう。単純な比較で論じることはできないが、現在グローバル化をめざす日本企業を見る限り、チャンドラーがいうように「組織は戦略に従う」を実感させられる。日本初の「モバイルクラウド」の提唱者である八子知礼氏は、日本企業には3つの弱点があると言う。
多様性を実現するためのワークスタイル
私が勤務するシスコシステムズは、「いつでも、どこでも、誰とでも、どんなデバイスでも」仕事ができる環境が整っている。職場で自分のスマートフォンや パソコンを使ってもよいし、自宅のPCで仕事をすることも可能。出社せずにWeb会議システムを使って会議に参加することも認められている。
シスコシステムズ合同会社
シスコ コンサルティング サービス
シニアパートナー
広島大学大学院修了後、松下電工(現パナソニック)入社。2001年アーサーアンダーセン入社、以降通信・メディア・ハイテク業界を中心としたマネジメントコンサルティングに従事。2007年デロイトトーマツコンサルティング入社、2010 年に執行役員パートナーに就任。日本初の「モバイルクラウド」の提唱者であり、同名の著作がある。2014年より現職。GAISHIKEI LEADERSのサポートメンバーとしても活躍する。
こうした環境が、子どもを持つ母親ワーカーや介護で遠隔地にいなければならないメンバー、世界各国で時差や環境が異なるメンバーたちと働くことを可能にする。言い換えれば、多様な国籍のさまざまなワークスタイルへのニーズやワークライフバランスを実現できるのだ。
それが企業組織に何をもたらすかは明らかだろう。優秀な人材の確保である。
日本ではここまでやろうとする会社は少ない。どんなワークスタイルで、どんなアウトプットや業務上でのコラボレーションを実現すれば会社も社員も成長できるのかについて、つまり組織としての戦略がはっきりしないまま「ワークスタイル改革」を唱えているようだ。戦略がないのにワークスタイル改革が流行になってしまう現実。ワークライフバランスもしかり。
だが、どんな組織にも必ず「らしさ」がある。それが生かされないのは現状認識が甘いからだ。欧米企業の受け売りはもうやめて、虚心坦懐に、組織の現状を認識すべきだろう。その手掛かりを3点に絞って述べてみたい。
プラットフォーム志向か?
日本はかねてから「加工貿易国」といわれてきた。かつては半導体やパソコンで米国を圧倒し世界を席巻したわけだが、韓国や台湾、中国にその座を奪われてから久しい。
韓国や台湾のメンバーたちは「30年前のおまえたちのビジネスモデルを真似ただけだ」と言うが、あながち冗談でもないだろう。フィリピンのメンバーは「インドとアウトソーシングセンターの取り合いをしているから、負けるわけにはいかない」「規模で対抗するのは難しいから、英語対応の品質や数年間の運用コストで勝負する」と言う。確かに、資源を持たない国は、仕入れた物に価値を付加して売ったり、集約化によるビジネスを強みにしたりして成長するしかない。
こうした原理原則に則ってグローバル展開を目論むアジア企業に比べて、日本企業は加工貿易の原点を見失ってしまったようだ。だが今一度、ビデオカメラやのモバイルの領域で一世を風靡した時の教訓を思い出してみてほしい。プラットフォームを押さえてしまえば十分に加工貿易のメリットを生かせるはずだ。