『マーケット感覚を身につけよう』の対談連載、最初のシリーズもついに最終回。
多数のメディアでのビジネス経験を持ち、現在はLINE株式会社・上級執行役員 法人ビジネス担当である田端信太郎さんが、株取引をする中で気づいた“恐ろしくてあたたかいマーケットの本質”を教えてくれます。(構成/崎谷実穂 写真/疋田千里)
マーケットは「乗り心地の悪い乗り物」
ちきりん 田端さんは、マーケット感覚を身につけるには、どういうことが重要だと思いますか?
田端信太郎(以下、田端) 金融マーケットがもっともマーケットらしいマーケットですが、基本的に上にも下にも大きく振れる、不安定なものなんですよね。ちょっと前まで原油高だったのに、すぐ価格が下落したり。まるで、急発進と急ブレーキを繰り返す乗り心地の悪いスポーツカーみたいなものです。でも、そういうものだと割りきって、いちいちオロオロせずに付き合っていくことが大事なんじゃないでしょうか。
ちきりん たしかに。マーケットに慣れてない人って、ちょっとしたことにすぐオロオロしちゃうんですよね。たとえば地方自治体が誰かの講演会を企画して、それを発表したとたんに「なんで税金で、こんな人の講演会をするのか」という抗議メールが5通くらい来たとする。たった5通なのに、「クレームが来た!」と焦ってイベントをとりやめるところがあるんです。すると、今度は「なんでやめるんだ」という声が来て、また復活させる。そういうのを見ていると、ああ、マーケットにまったく触れたことがないんだな、と思います。極端な意見を声高に叫ぶ人って、まったくマーケット全体を代表していない。そういう常識的なことが理解できてないから、ちょっとしたクレームに右往左往するんです。
田端 自治体って本当は、すごくマーケットにさらされていますよね。例えば、渋谷区で同性婚に対する証明書を発行するという話があったじゃないですか。あれ、僕はすごくいいと思うんですけど、それが嫌な人が取りうる最強の選択肢は、渋谷区外への「引っ越し」だったりするわけです。そうやって、人の入転出によって自治体は評価されているという見方もできる。
ちきりん そうなんです。IターンやUターンで人を集めるとか、ふるさと納税とか、全部そうですよね。でも、そういう感覚が薄い。ふるさと納税でも、謝礼として米や金券を配って終わりのところもあれば、宿泊券などで旅行者を集めようとするところもある。移住を促進したいなら、移住体験会にご招待みたいな特典をつければいいし、もっといろんな工夫ができるはずです。
田端 なるほど。そもそも、納税してほしいだけなのか、それをきっかけに人口を増やしたいのか。やはり、マーケットをどのように、なんのために利用するか、考えたほうがいいということですね。地方で言うと、今、観光でどこも「おもてなし」を掲げてるじゃないですか。あれ、あぶないですよね。ちゃんと外国人の人がしてほしい「おもてなし」になっているか、考えられているのかな。「ものづくり」と同じ、自己満足で自家撞着になってる嫌な雰囲気を感じます。
ちきりん 「おもてなし」もすごく押しつけがましい感じのする言葉ですよね。サービスなんて、相手が評価してくれてナンボなのに、こっちから「ほら、このサービスすばらしいでしょ?」って言うのは、供給者目線すぎる気がします。
あと、なにかというと全員が同じものに便乗するのもどうかと思います。おもてなしもそうだし、“ゆるキャラ”もね。誰かがひとつのマーケットを見つけると、全員そこに参入するって、需給を考えれば賢い選択ではありません。なぜ、自分たちで新たにマーケットを創造しようという発想にならないのか。プライドがないというか、発想力に欠けているというか……。
田端 いや、「間違えたくない」という意味での、脆弱なプライドがありすぎるんだと思いますよ。二番煎じの市場って、それなりに売れますから、そういう意味では、大外しにはならないですからね。昔のPanasonicとかも、それですごいシェアをとってましたし。ファーストムーバーになって、まったく売れなかったら、それこそ恥ずかしいと思ってるんじゃないでしょうか。