ゴーイングコンサーンを意識した国家観を

 そろそろどういう「世界」にしていくのか、というグランドデザインを、真剣に考えるべき時期に来ていると思います。先進国は、日本を先頭にして人口減少時代に入っていきますから、今までの成長前提の経済は成り立たなくなるでしょう。今、地方公共団体の人たちと話をしていると、「市民が幸せになるための行政」という表現を盛んに使い始めたと感じています。人々は、根本的な何かが変わりつつあって価値観の変化が必要であることを、察知しているのではないでしょうか。

松村 ええ、それは感じますね。速水融慶応大教授が「人口減少=悪」ではない、次世代に向けて発想転換せよ、とおっしゃられています。

 日本の場合、他の先進国と違い「女性の活躍」や「地方創生」のような大きなポテンシャル、いわば甚大な「伸びしろ」があります。このあたりの付加価値を顕在化していくことができれば、日本の将来は明るいとも思っています。

松村 現状の問題は、前提を間違えていることです。成長できないものを成長できると考えているから、異次元金融緩和のような政策が出てくるわけです。とにかく早く結果を出すことばかり考えて、将来にコストを付け回す政策です。どう考えても無茶でしょう。重要なのは、少なくとも30年後の未来を考え、ゴーイングコンサーンを意識した国家観をもって取り組むこと。国債を買いまくれば解決すると言った安易なことではないのです。

 ここで問題になるのが、「分配」の概念ですよね。

松村 そうなんです。成長しない世界を受け入れ持続可能な国を考えるときの最大のハードルは、成長すればできたはずの分配ができないことです。そればかりでなく、成長できないゆえに痛みを伴う“負の分配”を行わざるを得ないのですから。はたして、これができるのかどうかが、大きなカギとなるでしょう。

 アベノミクスにおいても、第一の矢、第二の矢、第三の矢とうまくバランスをとった政策がとれれば問題はありません。なぜなら、そこには“負の分配”も含まれているからです。たとえば、第三の矢のような規制緩和は既得権益者にとって“負の分配”。財政再建だって、増税や歳出カットという“負の分配”です。第一の矢で時間稼ぎをしている間に、財政再建のための消費税上げといった“負の分配”を行うことが本来のアベノミクスのコンセプトだったはずなんですが。

松村 ええ。

 先の総選挙では、消費税上げを先延ばしすべきと国民は考えているという選挙結果になりました。しかし、実際のところ、国民は真剣に“負の分配”を考えなければという問題意識ももっているはずです。

松村 この問題に関して自著で「日本人なら日本の国の未来を考えてできるはずだ」と楽観的な書き方をし、そんな簡単なことではないだろうというご批判もいただきました。たしかに、資産価格を吊り上げるだけのバブルをつくって自分の生きている間だけ良ければいいと考え、次世代にコストを付け回すことを厭わないのであれば、日本の未来は暗いと言わざるをえないでしょう。国が続いていくために必要な“負の分配”を受け入れていくような日本人の英知に期待したいですね。