今に始まったことではないが、「町の酒屋さん」の経営は全国的に見ても相当に苦しい。試みに国税庁のホームページを調べたら、「中小酒類小売業者の転廃業のためのマニュアル」まで載っていた。国税庁が転廃業の心配までしないといけないのだとしたら、これはかなり深刻な事態である。
という訳で、今回は酒屋さんを取材してみようと思い立った。イベントで知り合った千葉県流山市の「かごや商店」三代目、金子巌さんに申し込むと、すぐにオーケーの返事があった。勇んで現地へ出かけると、そこはなんとあるものの“聖地”だった──。
バスは1時間に1本
便の悪い場所でも元気に営業中
東京の秋葉原からつくばエクスプレスに乗ると、約30分で「流山おおたかの森」駅に着く。駅の南側には大規模なショッピングセンターがあり、裏手には新興住宅街が広がっている。それとは対照的に閑散としている駅の反対側からタクシーに乗って10分ほど行くと、旧流山街道へと出る。江戸川に沿うようにして走るこの街道沿いでひっそりと営業を続けている酒屋が、「かごや商店」だった。
近くにバス停はあるものの、時刻表を確認すると、朝の通勤・通学時間帯を除き1時間に1本ずつしかバスが来ない。どの駅からも歩いて来るにはやや遠く、見るからに不便な場所だ。とりあえず、陽のあるうちに店の外観を撮影しておこうとカメラを向けると、店内からひょっこり顔を出した男性がこちらに向かってピースした。このノリの良さそうな明るいご主人が、金子さんだ。
「とにかく、酒屋はこうあるべきという既成概念を取り払っていかないとダメだと思っているんです。ここは決して便がいいわけではありませんから、間口を広げて行かないと。このあたりにあったお店も、ほとんど廃業しました。営業しているところも、コンビニエンスストアになったり……。うちも、あちこちに自動販売機を設置するなどしてなんとか営業を続けています」
──主な収入源は駐車場だという酒屋さんの話もよく聞きますね。
「そうですね。酒屋の経営が厳しくなったのは80年代後半から。安売りの量販店が登場して、酒の売り方が根本的に変わったんです。酒屋と言えばそれまでは御用聞きがほとんどでした。つまり、こちらがお客さんの元へ出向いて注文をとる。それが逆になったんです。価格も商品も多様化し、お客さんが店に足を運ぶだけのメリットが出てきた。それだけの魅力が量販店にはあったということでしょう」