シンプルにユーザーのことを考える。
その結果として、勝利はもたらされる。

LINE(株)CEOを退任した森川亮氏が明かす!<br />ビジネスで「勝とう」とするから負ける。1967年生まれ。筑波大学卒業後、日本テレビ放送網に入社。コンピュータシステム部門に配属され、多数の新規事業立ち上げに携わる。2000年にソニー入社。ブロードバンド事業を展開するジョイントベンチャーを成功に導く。03年にハンゲーム・ジャパン(株)(現LINE(株))入社。07年に同社の代表取締役社長に就任。15年3月にLINE(株)代表取締役社長を退任し、顧問に就任。同年4月、動画メディアを運営するC Channel (株)を設立、代表取締役に就任。

 ビジネスの本質も音楽に近いのではないか──。

 僕は、そう考えています。たとえてみれば、会社はバンドのようなもの。歌のうまい人、ギターのうまい人、ピアノのうまい人……。いろんなパートを受け持つ「腕利き」が集まって、いい音楽を奏でるために力を合わせる。そして、いい演奏ができればメンバーも楽しい。リスナー(ユーザー)も喜んでくれる。全員がハッピーになれるのです。

 いい音楽を生み出すためには、「リスナーはどんな音楽を求めているか?」「そのためにはどんな演奏をすればいいか?」という問いに向き合うことがいちばん大切です。メンバー同士が戦っても意味がありませんし、他のバンドと戦うことにも意味はありません。一人ひとりが受け持つ楽器の腕を磨き、いいハーモニーを生み出せば、必ずリスナーも喜んでくれる。それが、音楽だと思うのです。

 もちろん、現実のビジネスでは戦いを避けることはできません。
 他社が優れたプロダクトを生み出せば、それを上回るものを出さなければ生き残れませんし、他社の開発スピードに遅れをとれば劣勢に立たされます。それは、競争であり、戦いでもあります。しかし、それがビジネスの本質ではないと思うのです。

 むしろ、それを本質だと考えると道を間違えるのではないでしょうか?
 なぜなら、ユーザーから目が離れてしまうからです。
「ライバルからシェアを奪い取れ」「ライバルより値下げしろ」「ライバルより利益率を高めろ」……。こうした戦いにばかり気を取られるうちに、ユーザーのことよりもライバルのことばかりに気が向くようになります。そして、ライバルに勝つことが目標になってしまうのです。しかし、ユーザーにとって、それはどうでもいいことです。ユーザーは、ただ「いい音楽」が聞きたいだけなのです。

 だから、僕はビジネスとは戦うことではないと思います。
 それよりも、シンプルにユーザーのことだけを考える。そして、「ユーザーが本当に求めているもの」を生み出すことに集中する。その結果として、勝利はもたらされるのです。