前回、基本となる3つの経済思想「古典派→新古典派経済学」「ケインズ経済学」「マルクス経済学」とそれぞれ対応する政治思想を整理しました。だけど、いろいろ疑問が出てきます。自由主義とリベラルはどう違うのか、社会民主主義はマルクス経済学の影響を受けているのではないか…等、今回はそれらに回答していきます。
自由主義とリベラリズム・・・ややこしい!
前回、基本となる3つの経済思想と政治思想を紹介したよね。
(1) 古典派→新古典派 ――― 保守主義・新自由主義(右派)
(2) ケインズ経済学 ――― リベラリズム(中道右派)
(3) マルクス経済学 ――― 社会民主主義(中道左派)
なにか質問はあるかな。
Q 質問! (1)自由主義は英訳すると“リベラリズム”ですよね。中道の(2)リベラリズムと同じではないのですか?
誕生した時期が違う。歴史家の入江昭さん(ハーバード大学名誉教授)は、古典派経済学の背景にある(1)自由主義を「18世紀のリベラリズム」としています。政府からの自由、つまり自由放任を求める考え方のことです(『歴史家が見る現代世界』講談社現代新書、2014による)。
一方、政府による弱者救済策、つまり、リベラルな政策を重視する(2)リベラリズムのケインズ的な考え方を「19世紀のリベラリズム」としました。政府による自由ね。
日本語で2つのリベラリズムを区別するために、「18世紀のリベラリズム」を自由主義とし、1930年代に登場し政府による積極的経済政策を重視する「19世紀のリベラリズム」をリベラリズム(リベラル)とします。
さらに、1980年代には、リベラルに対して「18世紀の自由主義」が再興することになりますが、それを英語では「ネオ・リベラリズム」といいます。ややこしいですね。これもまた中道のリベラルと紛らわしいので、日本語では「新自由主義」といいます。
Q もうひとつ質問です。マルクス経済学と結ぶべき政治思想は、社会主義や共産主義ではないんですか。
ヨーロッパでは1980年代まで、3つではなくて4つの政治思想がありました。
(1) 古典派→新古典派 ――― 保守主義・新自由主義(右派)
(2) ケインズ経済学 ――― リベラリズム(中道右派)
(3) マルクス経済学 ……… 社会民主主義(中道左派)
(4) マルクス経済学 ――― 社会主義(左派)
ところが、1989年の東欧革命、91年のソビエト連邦の解体で社会主義国はほとんど消えてしまいました。世界的には中国、ベトナム、キューバ、ラオスなどごく一部の国にしか社会主義計画経済は残っていませんし、中国、ベトナムは市場経済を導入しています。共産党独裁で資本主義を導入しているので、例外的な存在です。
一方、一党独裁ではなく、民主的な選挙による多党議会政治と資本主義を基盤とし、国民の同意を得ながら政府による福祉を最大化するのが社会民主主義です。マルクス経済学の影響を受けてはいるけれど、社会民主主義は、革命による資本主義体制の打破を目指すマルクス主義とは決別している。したがって、ここは点線で結びます。
1989年の東欧革命以降、ヨーロッパでは(4)社会主義がほぼ消滅し、社会主義政党だったフランス共産党、イタリア共産党などは(3)社会民主主義に移ります。
イタリア共産党は91年に党名も左翼民主党へ変えてしまいました。フランス共産党は政権与党として閣僚を出すこともありますから、実態は社会民主主義政党です。ドイツ社会民主党は誕生したときから(3)社会民主主義です。
21世紀のヨーロッパの社会民主主義政党は、ケインズ的なリベラルと社会民主主義のあいだを揺れています。英国労働党はブレア政権のときに保守党の(1)自由主義政策を一部引き継ぎ、「第3の道」を標榜しました。自由主義でもなく、リベラル・社会民主主義でもない、「第3の道」というわけです。
ヨーロッパではいちばん左の(4)社会主義が消えてしまったので、全体に右の(1)〜(3)へ移ったわけです。