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女性活躍推進を阻む企業の誤解

「会社に来ても仕事がない…」時短女性のジレンマ

林 恭子 [グロービス経営大学院教員],君島朋子 [グロービス経営大学院教員]
【最終回】 2015年6月19日
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4時半に帰宅する女性たちの知られざる苦悩とは?

 「お先に失礼します」

 午後4時35分。近藤めぐみは、そっと立ち上がった。近藤の職場は、夕方になると、なぜか活気づくような気がする。外回りの者が帰社するからだろうか。書類を書く者、雑談する者、営業の様子を報告する者、会話でざわざわする机の間を抜けて外に出る。

 駅への道を急ぎながら、近藤はため息をついた。今日は、他部署からの相談を数件受け、課内で来月の定例資料の打ち合わせをして終わった。毎日、困ったこともないが、やりがいもない。仕事は時間内に楽々終わってしまう。「必要なのかな、私…。主任と名乗っているのに、これでいいのかな。来月の異動希望調査、何か書いた方がいいかな…」

 とはいえ、4時半に帰れるのはありがたかった。近藤は、大手総合電機メーカーでソフトウェア開発を担当して9年目。自分でも、がんばって働いてきたと思う。おかげで2年前に主任になったが、その後すぐに産休を取り、娘を出産した。それまでは時間など気にせず働いてきたので、育児もしながら仕事を続けられるだろうかと迷ったが、ちょうどその頃、職場では出産後復帰する女性が多数派になりつつあった。先輩からは復帰を勧められ、短時間勤務制度もあることだし、と時短制度を利用しながら復帰して1年が経つ。

 復帰後、残業が必須ではない、社内プロジェクトの担当に回してもらった。課の配慮はありがたかったが、数ヵ月経つと娘は保育園にすっかり慣れ、自分も仕事のペースを取り戻してきた。プロジェクトはさほど忙しくなく、他部署から参加しているのは入社3~5年目の若者ばかりで、しかも所属部署の通常業務も兼務している。主任の自分が社内プロジェクトのみの担当なのは肩身が狭い。とはいえ、子どもの病気で呼び出されることもまだあるし、急な仕様変更などで深夜作業になっても困る。産休以前の業務を今も担えますとは言いきれない。

 「いつまでも、こんな感じかな…」

 最近は、自分だけが暇な気がして、課内のメンバーをランチに誘うのも申し訳ないように感じるのだった。

 一方、課長の原田は、4時半に帰宅する近藤の背中を見やって、考え込んだ。課内で走っている開発案件はどれも忙しく、増員を求めている。

 「近藤さんに、社内プロジェクトからどれかの案件に移ってもらった方が…いや、止めた方がいいだろうな」

 開発チームは、作業自体は社内で行うが、クライアントを訪問する機会も多い。主任だから、突発的な問題にも対応してもらわざるを得ない。常に4時半までに片付くような環境とは到底言えない。

 「残念だが…まだ復帰して1年だから大変だろうし、無理はさせられないな」

 原田の課内では、初めての産休復帰者が近藤だ。折しも原田の会社は「くるみんマーク」を取得し、育児支援制度の利用を促進する社内キャンペーンの最中だった。

 「近藤さんには、ちゃんと働き続けて、若い女子社員のモデルになってもらわないといけない。ここで無理させて、辞めでもしたら困る」

 原田としては精一杯配慮して、急ぎの仕事が回ってこないような役割にし、周囲に声をかけ、働きやすい環境作りに努めているつもりだ。帰宅時間を過ぎても働いているような時は、自分が仕事を引き取って帰宅を促したりもしていた。

 「だけど、肩書は主任だからな…。いつまでも軽い職務ばかりだと、他のメンバーから不満が出るだろう。時短勤務制度は、小学1年生までだったかな。あと何年だ?もっと時短に適した、管理部門あたりに異動してもらった方がいいのかもしれない…人事部に相談してみようかな」

 原田も、近藤に何の業務を当てるべきか、悩んでいるのだった。

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林 恭子 [グロービス経営大学院教員]

グロービス経営大学院教員・(株)グロービス 経営管理本部 本部長。筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士課程前期修了。モトローラにてOEMを担当した後、ボストン・コンサルティング・グループの人事担当リーダーとして幅広く人材マネジメントに携わる。現在はグロービスにて経営管理全般を統括、兼任でグロービス経営大学院の教員としてリーダーシップ、ダイバーシティマネジメント、キャリア開発等の領域を担当。企業研修、講演も多数。共著書に『【新版】グロービスMBAリーダーシップ』(ダイヤモンド社)、『「変革型人事」入門』(労務行政)、『女性プロフェッショナルたちから学ぶキャリア形成』(ナカニシヤ出版)。
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君島朋子 [グロービス経営大学院教員]

グロービス経営大学院 教員・(株)グロービス ファカルティ本部 本部長。国際基督教大学教養学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。法政大学大学院経営学研究科キャリアデザイン学専攻修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、グロービスに入社。現在はファカルティ本部にて研究開発とファカルティ・ディベロップメント活動を統括。グロービス経営大学院の思考領域・人材マネジメントの教員を兼任。主に日本企業の人的資源管理と女性労働についての研究に携わる。キャリアデザイン学会会員。
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女性活躍推進を阻む企業の誤解

日本企業において今ほど女性リーダー、マネジャーの活躍推進が望まれている時代は無い。しかし、現実に多くの企業で女性リーダーの台頭が広く進みそうな気配は依然としてうかがえない。女性リーダーが生まれない日本企業の現状を変えるためには、どうすべきか。この連載では、女性活躍推進を阻む企業のなかにある誤解を紹介し、その打開策を見出していく。

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