ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
女性活躍推進を阻む企業の誤解

女性を雇うのは非効率、と信じ込む人事部の勘違い

林 恭子 [グロービス経営大学院教員],君島朋子 [グロービス経営大学院教員]
【第3回】 2015年6月5日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage
本当に女性をずっと働かせていることが少子化の原因なのか? Photo:imtmphoto-Fotolia.com

 経営企画部の飯田は、今日も残業しながら経営会議の議事録をまとめていた。会議後の人事部長の言葉が頭に浮かび、飯田は顔をしかめた。

 「女性をずっと働かせようとするから少子化になるんじゃないですかね。夜中まで働かせたりすれば、子どもを持とうとしても無理ですからね」

 共働きの妻に聞かせたら何と言うだろうか……。「まだ仕事、ごめん」と飯田は妻にメールを打った。飯田家は共働きで、妻もかなり遅くまで働いている。今晩は妻が早く帰れると言っていた。久しぶりに一緒に夕飯を食べて帰りたいと思っていたが、無理そうだ。

 ことは数時間前にさかのぼる。経営会議の終了後、最後まで席に残っていた人事部長が経営企画部長の橋本のところに寄ってきた。

 「橋本さん、先ほどの社長の話ですが」

 人事部長が切り出した。

 「人事部としても状況を把握してから対策を考えたいので、ちょっとまだ、議事録には残さないでいただけませんか?」

 「女性活用の話ですか?どうでしょうかね、相当はっきりおっしゃっていましたがね…。まあ、公開用の議事録からは削除しておきますか」

 橋本は飯田の方に振り返って頷いた。

 「いきなり管理職だのなんだのと書くと、誤解する人もいるから。人事関係の問題は議事録に載せるべきことではないしね」

 人事部長は飯田にそう言いつけて、橋本を振り返り、ため息をついて言った。

 「採用と言っても、今は技術職がほとんどですからね。現場に来たいという女の子なんていませんよ」

 「店舗はどうですか?女性社員もけっこういますよね」

 橋本が返すと、人事部長は顔をしかめた。

 「店舗の女の子はだいたい派遣社員か事務職ですよ。あの子たちだって、子どもができたら辞めるんです。昔よりも辞める年齢が上にはなりましたがね、それでもずっと働こうなんて意識はないですよ。本社では何人か子どもを持っても辞めない子も出てきましたがね、休みの間は誰か補充しなければならないし、復帰したらしたで毎日早く帰ったり子どもが病気だと言っては休んだり、一人前に働けなくて非効率なんですよ。そういう部署では扱いに困っているんですから」

 橋本が無言で聞いていると、人事部長は後で何度も橋本の頭の中で繰り返されるこの言葉を言ったのだった。

 「だいたい、女性をずっと働かせようなんてするから少子化になるんじゃないですかね。夜中まで働かせたり、現場に出したりすれば、それは子どもを持とうと言っても無理ですからね。社長も、一方では少子化で市場が縮小して困るっておっしゃるじゃないですか。だったら女の子を無理にずっと働かせちゃいけないと思いますがね」

 人事部長はぶつぶつ言いながら立ち去った。

 飯田は議事録をまとめながら、妻が来年昇進しそうだと喜んでいたのを思い出した。それもあってか、今年は毎日帰りが遅い。飯田は33歳、同期の多くは子どもがいる。一緒に友人の子どもに会いに行った時、妻も「落ち着いたら、欲しいね」とぽつりと言っていた。少子化は先進国共通の現象じゃなかったかな、と飯田は考えた。女性の社会進出が原因という話もあったが、でも彼女に仕事のせいだなんて言ったら怒るだろうな……。ともかく早く帰ろう、と飯田は思った。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR
【デジタル変革の現場】

企業のデジタル変革
最先端レポート

先進企業が取り組むデジタル・トランスフォーメーションと、それを支えるITとは。

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

林 恭子 [グロービス経営大学院教員]

グロービス経営大学院教員・(株)グロービス 経営管理本部 本部長。筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士課程前期修了。モトローラにてOEMを担当した後、ボストン・コンサルティング・グループの人事担当リーダーとして幅広く人材マネジメントに携わる。現在はグロービスにて経営管理全般を統括、兼任でグロービス経営大学院の教員としてリーダーシップ、ダイバーシティマネジメント、キャリア開発等の領域を担当。企業研修、講演も多数。共著書に『【新版】グロービスMBAリーダーシップ』(ダイヤモンド社)、『「変革型人事」入門』(労務行政)、『女性プロフェッショナルたちから学ぶキャリア形成』(ナカニシヤ出版)。
GLOBIS知見録
GLOBIS GROUP

 

君島朋子 [グロービス経営大学院教員]

グロービス経営大学院 教員・(株)グロービス ファカルティ本部 本部長。国際基督教大学教養学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。法政大学大学院経営学研究科キャリアデザイン学専攻修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、グロービスに入社。現在はファカルティ本部にて研究開発とファカルティ・ディベロップメント活動を統括。グロービス経営大学院の思考領域・人材マネジメントの教員を兼任。主に日本企業の人的資源管理と女性労働についての研究に携わる。キャリアデザイン学会会員。
GLOBIS知見録
GLOBIS GROUP

 


女性活躍推進を阻む企業の誤解

日本企業において今ほど女性リーダー、マネジャーの活躍推進が望まれている時代は無い。しかし、現実に多くの企業で女性リーダーの台頭が広く進みそうな気配は依然としてうかがえない。女性リーダーが生まれない日本企業の現状を変えるためには、どうすべきか。この連載では、女性活躍推進を阻む企業のなかにある誤解を紹介し、その打開策を見出していく。

「女性活躍推進を阻む企業の誤解」

⇒バックナンバー一覧