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黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

「おはようございます」の一言で
年収7200万円稼ぐ人、1円も稼げない人の格差

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第21回】 2015年6月30日
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通学する子どもたちの安全を守る老紳士は、子どもたちに人気があり、警官にも慕われているが……

 今回は、働くことの厳しさ、尊さ、空しさを学ばさせてくれる、庶民の生活の1コマを取り上げたい。エピソードの主役は、筆者が暮らす地域の住民たちの間で、ちょっとした話題になっている「2人の男性」である。「黒い職場」という連載の枠組みに収まらないテーマにはなるが、本連載の趣旨である「働くことのホンネとタテマエ」を考える上で参考になると思う。

 仕事において、挨拶は基本中の基本である。「おはようございます」という気持ちのよい挨拶1つで、相手に好印象を与え、ビジネスがうまくいくことだってあるだろう。今回紹介する2人の男性は、周囲への挨拶を大切にすることは同じでも、その暮らしぶりに「恐ろしいほどの格差」がある。

 1人は、毎日「おはようございます」という挨拶をするだけで、なぜか数千万円もの収入を得る男性だ。彼は会社員でもなければ、会社を経営するわけでもない。自営業でもない。一方で、定年までまじめに働きながら、その後も雨の日も風の日も、ひたすら「おはようございます」と周囲に声をかけ、1円も得ることができない男性がいる。この状況はいったいなぜなのか。この両極端とも言える2人の男性を取り上げることで、日本社会の暗部を炙り出したい。


住人への挨拶だけで年収7200万円?
女性に鼻の下を伸ばすオーナーの息子

 午前7時50分、あの男が立った。雨の日も風の日も、雪が降る日も、男はここに立つ。この近辺においてはもはや“名物”となっている。

 そこは、12階建ての賃貸マンションの入口付近。すぐ前には、8台の自動販売機が並ぶ。男は缶コーヒーを買い、右手に持ち、時折口にしつつ、じっと身構える。背は170センチほど。体重は、100キロ近い。顔は、30代後半とは思えぬほどに童顔である。

 しばらくすると、マンションの住人たちが出てくる。会社に向かうのだろう。男は、それぞれの住人に声をかける。

 「おはようございます……」

 低く太い声に反応する人は、ほとんどいない。だが、しつこく声をかける。特に20~30代半ばくらいまでの女性が前を走り抜けるときには、体をやや前にかがめて声を絞り出す。女性の香水の臭いを嗅ぐかのように、そばに寄る。

 「おはようございます……」

 男には、意中の女性がいる。どこの部屋に住んでいるかは不明だが、20代後半の女性が前を通るときには、目線を落としつつその姿にじっと見入る。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

 ここ10数年の間に社会環境が大きく変わり、人々のホンネとタテマエに対する価値観が揺らぎ始めている。それを具現化しているのが、今の企業の職場ではないだろうか。これまでは、ホンネとタテマエが絶妙にバランスしながら、人間関係が維持されてきた。しかし、企業社会において生き残り競争が激化し、「他人より自分」と考えるビジネスパーソンが増えるにつれ、タテマエを駆使して周囲を蹴落とそうとする社員が増えている。

 誰もが周囲を慮らなくなり、悪質なタテマエに満ち溢れた職場の行きつく先は、まさしく人外魔境。そこで働く社員たちは、原因不明の閉塞感や違和感、やるせなさに苛まれながら、迷える仔羊さながらに、次第に身心を蝕まれて行く。この連載では、そうした職場を「黒い職場」と位置づけ、筆者がここ数年間にわたって数々のビジネスパーソンを取材し、知り得たエピソードを基に教訓を問いかけたい。

「黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史」

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