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田岡俊次の戦略目からウロコ

国民的議論もないフィリピンとの「同盟関係」が孕む危険

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第53回】 2015年7月9日
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国会でもメディアでもほとんど議論が無いまま、日本はフィリピンと同盟関係に入りつつある。200t級の巡視船10隻(計128億円)を無償で供与し、フィリピンに派遣する自衛隊に関する「地位協定」の協議を行い、共同演習などによる「相互運用能力の向上」を目指している。ベニグノ・アキノ大統領は東京での記者会見で「時期が来れば共同作戦も必要となるだろう」と語っている。南沙諸島を巡り中国と対立するフィリピンの防衛を日本に肩代わりさせたい米国の要請に応じたようだが、軍事力も経済力も乏しいフィリピンを同盟国にして中国と対立するリスクは極めて大きい。

事実上の同盟関係にリスクはないか?(写真は2013年海上自衛隊によるフィリピンへの国際緊急援助活動)Photo:JMSDF

 フィリピンとの軍事協力を始めたのは安倍政権ではなく民主党の野田政権だ。2011年9月にアキノ大統領が訪日して南沙諸島問題での日本の支援を求めたのに対し、当時の野田佳彦首相は両国の海上保安機関、防衛当局の協力強化を約束し、翌12年6月には玄葉光一郎外相がアルバード・デル・ロサリオフィリピン外相を東京に招き「フィリピンの沿岸警備隊の能力向上」を取り決めた。

 安倍晋三首相はこの前政権の決定を継承し、2013年7月にマニラでアキノ大統領と会談、巡視船10隻をODA(政府開発援助)により無償で供与することを表明した。この10隻は全長44m級(約200t)で小型の航洋船だが、フィリピンはさらに100m級(約1800t)の大型哨戒艦2隻の供与を求め、これは海軍所属になるとも言われる。

 引渡し時に砲は搭載しないようだが、その台座があり、防弾装備も付けるから、これが「武器」に当たることは政府も認めている。日本は2008年にインドネシア海上警察に100t級、30ノットの巡視船3隻を供与したが、これはマラッカ海峡に出没するインドネシアの海賊対処が目的であることは明らかで、国際紛争で一方に加担したとの非難を受けるおそれは少なかった。

 だが日本は2015年2月からベトナム海上警察に対し、水産庁に所属していた漁業監視船2隻とマグロ漁船4隻(いずれも500t級)を無償供与しており、これは低速ながら南沙、西沙諸島問題で、中国との紛争に使用される可能性がある。海上警察、沿岸警備隊は大陸諸国の国境警備隊と同様、国際的には「準軍隊」とされ、米国のコースト・ガードは戦時には海軍の一部となる。

中国との紛争に対して
日本が“軍事援助”する事態に

 日本では武器の「輸出」には否定的な世論が高い反面、無償供与にはほぼ無関心だが、実はビジネスとしての武器輸出よりも、無償での武器提供は問題が大きい。武器の無償供与は軍事援助であり、その相手側からは敵対行為とみなされるから、よほど慎重な判断が必要だ。

 特にフィリピンの警備艇は気軽に発砲する性癖がある。2013年5月にはルソン島北方、台湾とフィリピンの排他的経済水域(200海里)が重なる海域で台湾漁船に機関銃弾48発を命中させ、1人を殺害した。1996年にもその海域で台湾漁民1人を殺し、1998年には中国漁船4隻を拿捕し、漁民51人を半年間拘禁、2000年には中国漁民1人を射殺している。

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田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

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