「研修中」は社内事情

「お客さま第一」ということを経営者が指揮官先頭で行い、そして社内に声をからして叫んでいても、少し気を抜くと、内部の視点が優先してしまうものです。

 以前、「研修中」と書かれたワッペンをつけさせて新人に接客させているファミリーレストランを見たことがあります。それでは、お客さまも気を遣いますし、場合によっては、「新人なので許してほしい」というようにも受け取れるので、「なぜ、そんなことをしているのですか」と私が尋ねたところ、社員から返ってきた答えは、「新人なので、周りにいるスタッフがすぐにフォローできるようにするためです」というものでした。

「研修中」バッヂをつけた新人に接客させるのはなぜ問題か小宮一慶
小宮コンサルタンツ代表

 これは、単なる理屈です。新人をフォローするのが目的なら、お客さまには分からないように小さなリボンでもつけて目印にすればいいだけの話です。どうして、「社内の事情」をわざわざお客さまに知らせるのでしょうか。

 新人だとお客さまが分かることは、お客さまにも気を遣わせることになりかねません。新人だから料金を安くしてくれるのならまだしも、お客さまに迷惑をかけたり、気を遣わせるのは間違いです。

 そういう考えを「自社都合」と言います。自社都合や内部志向をお客さまに押しつけるような会社が、お客さまの立場に立てるはずがありません。

 こうした会社は、「内部志向」が強い会社、あるいは、「ES(従業員満足度)」を優先している会社と言い換えることができます。

 こんなこともありました。時々利用するある宿泊施設で、目覚まし時計のカチカチ音がうるさいので、時計を音のしないデジタルに換えたらどうかと担当者に申し入れたところ、翌年同じところに泊まったら、時計がなくなっていました。

 担当者にそのことを尋ねると「今は、皆さんが携帯を持っていますから」と言われました。面倒の種を消してしまったのです。お客さまからすれば、目覚まし時計があったほうが便利なのですが、内部のことだけを考えると、面倒の種をなくすという発想になってしまうのです。

 内部志向の会社は、お客さまの都合より、自分たちの都合を優先しがちです。経営者や従業員優先、そして、その状態がひどくなって、自分たちだけが金儲けができればそれで良いというような極端な内部志向になると、どんな手を使ってでも儲けようとして、不祥事を起こして塀の中に入る人まで出てしまいます。