創続総合研究所

母が人生の最後に、遺言で示した息子への怒り
~生前にどんな「準備」をしたかで、相続の中身も変わる

八木 そもそも、争いを避ける方法はなかったのでしょうか。例えば、息子さんが、もう少しマイルドな言い方をしていれば……とか。

八木美代子
ビスカス代表取締役

浅野 前回、後妻と前妻の子どものバトルを紹介しました。ああいうケースでは、そもそもお互いが水と油みたいな存在だから、分かり合うのは困難かもしれません。でも、今回の場合は、おっしゃるように、こじれさせないやり方があったように感じます。
 お母さんの立場になってみれば、年老いた身で、息子の会社から給料をもらうというのは、それ自体がささやかな喜びだったのではないでしょうか。それを頭ごなしに「ノー」と言われたから、あんなに怒ってしまった。「お母さん、会社が厳しいから、給料は我慢してくれよ。代わりに、ポケットマネーからお小遣いをあげるから」とでも話を持っていったら、何事もなかったのかもしれませんね。
 まあ、他人があれこれ話すのは簡単で、親子だから気を許し過ぎたり、逆に何も言えなくなってしまったり、ということもあるとは思うのですけど。

やっぱり「重い」遺言書の存在

八木 それにしても、「不用意な」発言のせいかどうかは別に、ご長男はもらえても遺留分だけになってしまったわけですから、遺言書の力ってやはり絶大ですよね。

浅野 例えば、「遺産は全部あの人にあげたい」だとか、相続について特別の意志をお持ちだったら、今すぐにでも遺言書を書くべきです。気が変わったら、書き直すこともできるのですから。
 これも、前回と同じように後妻さん絡みだったのですが、こんな例に遭遇したことがあります。高齢の資産家の男性が体調を崩し、どうやら先は長くなさそうだと悟った。そこで、「今の妻に全部の財産を譲る」という遺言書を作成しようと、準備を進めていたんですね。ところが、作成が終わらないうちに、亡くなってしまった。このケースでもやはり前妻との間に子どもがいたので、結果、後妻の取り分は、「妻に全部」という被相続人の意志に反して、法定相続分である2分の1、ということになってしまったんですよ。
 実は、私がこの件に関わったのは被相続人が亡くなった後だったので、被相続人が遺言書の準備をしていたことを、知らなかったんですよ。これも後から分かったのですが、司法書士に頼んで、公正証書遺言書(*2)を作ろうとしていたそうです。

八木 「遺言書を作るのなら、自筆などではなく、安心確実な公正証書遺言書にすべき」というのも、相続についての一つの「定説」です。

浅野 私も、基本的にそう思いますけど、それも時と場合によるわけです。このケースだったら、とりあえず簡単に書ける自筆証書遺言書を作っておくべきでした。私が相談を受けたなら、そうしたでしょう。自筆であっても、ちゃんと要件を満たしていれば、法的な効力は変わりません。公正証書遺言書は、それから作ってもいいんですよ。

八木 死期が近いとか、時間がない場合には、取り急ぎ自筆証書遺言を書いておけば安心というわけですね。

*2 公正証書遺言書 公証役場で公証人に作成してもらう遺言書。遺言書には、このほか自分で書く自筆証書遺言書、公証人に遺言の存在を証明してもらう秘密証書遺言書などがある。

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八木美代子 [株式会社ビスカス代表取締役]

早稲田大学卒業後、リクルート入社。1995年に株式会社ビスカスを設立。税理士を無料でご紹介するビジネスモデルを日本で初めて立ち上げ、現在まで10万件以上のマッチングを実現。相続に強い税理士のみを集めたサイト「相続財産センター」を運営し、相続コーディネーターとしても業界ナンバーワンの実績を誇る。著書に『相続の現場55例』(ダイヤモンド社)、『相続、いくらかかる?』(日経BP社)、『相続は『感情のもつれ』を解決すればお金の問題もうまくいく』(サンマーク出版)などがある。
株式会社ビスカス

 


相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術

相続の別名は、「争続」。仲の良かった兄弟姉妹が親の遺産を前に骨肉の争いを演じるというのは小説やテレビドラマの中だけの出来事ではないようです。諍いの中心はもちろん「お金」。ですが兄弟姉妹には、他人がうかがい知ることのできない「本音」「思い」があるようで……奥底にある「心の綾」を解きほぐすと争いから一転、分かりあえるのが家族。そうした「ハッピー相続」の例を解説します。

「相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術」

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