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齋藤ウィリアム浩幸 日本の欠落、日本の勝機

ポルトガル民話「ストーンスープ」の教えが、
日本の職場で役に立つ理由

齋藤ウィリアム浩幸 [内閣府本府参与]
【第15回】 2015年8月3日
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アイデアが協力を集めるための“呼び水”に

 先日、チーム力を感じさせるイベントがありました。日本航空(JAL)がコアパートナーを務めたカンファレンスイベント「TEDx Haneda(テデックス羽田)」です。

 TED(テッド)とは、「広める価値のあるアイデアの共有」を目的に、世界の各地域で行われている活動で、私もこのイベントのお手伝いをしたのですが、面白かったのはイベント後のパーティの企画を決めていくプロセスでした。

 オーガナイザーの1人が、ハンガー(整備場)を会場にしようという案をだしました。当初、その場にいたほとんどの人がそれは無理だろう思っていました。それでもJALの担当者が粘り強く社内の方々を説得していくうちに許可が下り、さらに飲食する(パーティだから当たり前なんですが)といったアイデアにも次々とOKが出て、とても楽しいパーティになりました。

 この一連の流れを見て、私は思ったのです。まるで、ポルトガルの民話「ストーンスープ」みたい、と。ご存じない方のために、ざっと紹介しておきましょう。

 ある旅人が旅の途中で食べ物に困り、立ち寄った村の人に「煮るとおいしいスープができる不思議な石を持っているのですが、鍋と水を貸していただけませんか」とかけ合います。興味を持った村人が鍋と水を持ってくると、その鍋の中に水と石を入れてスープを作り始めます。

 そのままでは、中味はただ石を水で煮ただけの「お湯」です。そこで旅人が切り出します。「塩をちょっと加えれば、もっとおいしくなるんですが…」。そう言って、村人に塩を持ってこさせます。同じように、米や肉、野菜をまんまと手に入れ、最後にはとてもおいしいスープをつくって村人にご馳走した(もちろん自分も食べた)、というストーリーです。

 食料も鍋も持っていなかった旅人が、おいしいスープにありつけたのは、アイデアによって他者の力を借りることができたからです。これは、「協力を集めるための呼び水の比喩」にも使われる民話ですが、この話のように今回も企画が進むにつれ、ボランティアの協力者がどんどん集まり、結果的に大成功となりました。

人とつながり、目標に向かって
苦労を分かち合うことが重要

 当日は、JALの多くの社員がボランティアとして参加しました。地上勤務の社員もパイロットもCAも、みんなと共にテーブルを運んだりゴミ拾いをしたりして準備に走り回り、その姿は感動的でさえありました。

 参加した社員の家族にも大好評で、「夫がどんな仕事をしているのかがわかって、私も子供もとても誇らしく思いました」と、涙を浮かべながらお礼の言葉をくださった方もいました。

 こんなふうに全員が1つの目標に向かって汗水流して苦労を分かち合うと、チームの絆はよりいっそう強まります。とても素晴らしいことです。

 チームづくりは、社員のみならず家族にとっても重要な意味があります。

 私が子供のころ、米国の企業では年に何度か、家族を職場に招待する日があって、夏なら公園で野外パーティ、冬は会社でクリスマスパーティなどのイベントが定期的にありました。それを通じて、子供も親の仕事がどういうものかを理解することができました。日本でも以前はこうした社内活動が行われていましたが、今は少ない。ただ、外資系を中心に復活の兆しはあります。

 日本人には、会社に「妻や子供は連れてきたくない」という人が多く、「余計なことを言われたくない…」「恥さらしになりかねない…」という気持ちがあるようですが、家族を含めたコミュニケーションが社員同士、あるいは社員と会社の信頼関係や絆を強くするのではないでしょうか。

 人間は、人とつながりたいという意味ではとてもハングリーです。つながっているからこそ、「会社のためにもうひと踏ん張りしよう」と思えるのはどの国でも変わらないと思います。パッション(情熱)のあるチームをどうやってつくり上げるかが日本復活の肝になるでしょう。

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齋藤ウィリアム浩幸
[内閣府本府参与]

さいとう・ウィリアム・ひろゆき
1971年ロサンゼルス生まれの日系二世。16歳でカリフォルニア大学リバーサイド校に合格。同大学ロサンゼルス校(UCLA)卒業。高校時代に起業し、指紋認証など生体認証暗号システムの開発で成功。2004年に会社をマイクロソフトに売却してからは日本に拠点を移し、ベンチャー支援のインテカーを設立。有望なスタートアップ企業を育成している。12年には、総理大臣直属の国家戦略会議で委員を拝命し、国会事故調査委員会では最高技術責任者を務めた。また13年12月より内閣府本府参与に任命されている。世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2011」選出。2015年6月より、パロアルトネットワークス合同会社副会長に就任。著書に『ザ・チーム』(日経BP社)、『その考え方は、「世界標準」ですか?』(大和書房)。


齋藤ウィリアム浩幸 日本の欠落、日本の勝機

歴史的に、世界に挑むチャレンジ精神は本来、日本人が持っていた気質。しかし今の時代、日本のお家芸“ものづくり”だけでは新興国に負けるのは火を見るよりも明らかだ。成長へと反転攻勢に転じるために必要なものは何か――。それは革新的なイノベーションを起こすための「世界標準の思考」に他ならない。気鋭の起業家であり、技術者である筆者が、日本が再び世界をリードしていく道はなにかを説く。

「齋藤ウィリアム浩幸 日本の欠落、日本の勝機」

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