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加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

習近平は“戦後70年安倍談話”に何を求めるか?

加藤嘉一
【第57回】 2015年8月4日
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プレッシャーと未来志向
対日政策に関する中国の本音

中国側は安倍談話に、村山談話&小泉談話で使用された3つのキーワードを求めていくものと思われる

 「日本は歴史問題をどのように適切に処理するかという課題に直面している。日本にとってみれば、対外的には他国の有益な経験を汲み取ることができるし、対内的には正義を主張し、平和を愛する声が不断に高まっている。

 肝心なのは、日本の指導者がどのような選択をするかである。引き続き歴史の影のなかに留まり、歴史の被告席に立ち続けるのか、それとも各国、特に過去において日本に侵略され、傷つけられた国家と真の意味での和解を実現し、共に未来を切り開くのか。これは日本の指導者の前に立ちはだかる重大な問題であり、中国側はその動向を注目している」

 2015年6月27日、北京の清華大学で開催された第四回世界平和フォーラムに出席した王毅・中国外交部長が会場からの対日政策に関する質問に答える形で、このように主張した。「中日は隣国であり、我々は当然ながら両国が平和的に共存し、互恵的な協力関係を築いていくことを望んでいる。これが中国の既定政策であり、今後も変わることはない」と対日重視も露わにした王氏のコメントであるが、同外交部長の談話や声明の作成に関わる某外務官僚は、次のように私に述べる。

 「中国政府としては、戦後70年の終戦記念日に当たっての安倍談話の内容に注目している。その談話が中国側として納得できるものになるために、適度にプレッシャーをかけることも重要であるが、一方で、安倍首相を追い詰めるようなやり方は適切ではないと考えている。日本との関係を発展させていくという未来志向の立場も、シグナルとして示していく必要がある」

 この官僚によれば、同フォーラムの開幕式で挨拶をした李源潮・国家副主席も対日関係を高度に重視しており、「挨拶の最後、李副主席は“今年、世界の多くの国家と国際連合は反ファシズム戦争勝利70周年記念活動を実施するが、その目的は人々に対して、簡単に実現してきたものではなかった平和を大切に保護し、戦争の悲劇を繰り返さないことにある”と述べたが、“反ファシズム”とだけ言い、“抗日戦争”には触れなかった。日本との関係構築を意識したものだ」とのことだ。

 これから約10日後に発表される安倍晋三首相による戦後70年談話を巡る動向を、中国は静かに、しかし継続的に注視しているように見える。本稿では、上記のエッセンスに基づいて、以下、中国共産党指導部は“戦後70年安倍談話”に対して、何を、どこまで求めていくであろうかという点を浮き彫りにしていきたい。

 今後の日中関係、および日本の対外戦略を考える上でも重要なテーマである。安易な他人任せや独りよがりな希望的観測を排した上で、相手の戦略や意図を的確に理解しようとする作業は、国益を死守するための出発点となると私は考える。

 そもそも、2015年=戦後70年という季節、中国共産党指導部が歴史問題において日本に対してプレッシャーをかけつつ、同時に日本との関係を重視していくという基本的スタンスは、1年に一度北京で開催される全国人民代表大会(全人代)の時点である程度定まっていたように思われる。

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加藤嘉一 

1984年生まれ。静岡県函南町出身。山梨学院大学附属高等学校卒業後、2003年、北京大学へ留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2012年8月に渡米。ハーバード大学フェロー(2012~2014年)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員(2014〜2015年)を務めたのち、現在は北京を拠点に研究・発信を続ける。米『ニューヨーク・タイムズ』中国語版コラムニスト。日本語での単著に、『中国民主化研究』『われ日本海の橋とならん』(以上、ダイヤモンド社)、『たった独りの外交録』(晶文社)、『脱・中国論』(日経BP社)などがある。

 


加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

21世紀最大の“謎”ともいえる中国の台頭。そして、そこに内包される民主化とは――。本連載では、私たちが陥りがちな中国の民主化に対して抱く“希望的観測”や“制度的優越感”を可能な限り排除し、「そもそも中国が民主化するとはどういうことなのか?」という根本的難題、或いは定義の部分に向き合うために、不可欠だと思われるパズルのピースを提示していく。また、中国・中国人が“いま”から“これから”へと自らを運営していくうえで向き合わざるを得ないであろうリスク、克服しなければならないであろう課題、乗り越えなければならないであろう歴史観などを検証していく。さらに、最近本格的に発足した習近平・李克強政権の行方や、中国共産党の在り方そのものにも光を当てていく。なお、本連載は中国が民主化することを前提に進められるものでもなければ、民主化へ向けたロードマップを具体的に提示するものではない。

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