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佐藤可士和の打ち合わせ
【第7回】 2015年8月12日
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佐藤可士和 [アートディレクター]

いいものはいい、悪いものは悪い、
と言う勇気が大切

打ち合わせはあまりにも身近で、そこかしこの企業で行われてきました。日本を代表するアートディレクター・クリエイティブディレクターである佐藤可士和氏も、その多忙な生活の多くを打ち合わせで費やしています。そして、たくさんの打ち合わせの経験からいかにそれが大切なものか『佐藤可士和の打ち合わせ』(ダイヤモンド社)で述べています。
打ち合わせに本気で臨むということは、「全然ダメ」と言い出せる打ち合わせでもあるということです。そして、その心構えを持った上で重要となるのが打ち合わせの設計図。直球で思いをぶつけ、目的に向かって走り続けられる打ち合わせとは――

「つまらない」と言えるか?
その理由を語れるか?

 博報堂時代、僕は言いたいことを何でもズケズケと言う社員でした。新人時代から、先輩が作ったものに対しても、「こんなの全然ダメ」と言ったりしていました。
 幸運だったのは、博報堂がそういう打ち合わせを認めてくれる会社だったことです。先にも書きましたが、営業がコピーを考えてもいいし、コピーライターがデザインのアイデアを出してもいい。そういうことが理想だと、会社として言っていました。

 アイデア会議など、クリエイティブな場になったら、上下関係はない、というのも、そのひとつ。面白いものは面白い。つまらないものはつまらない。それを言い合うことはいいことだ、と。僕はそれを真に受け、というより、拡大解釈して、本当に言いたいことをズケズケと言っていたのです。

 やがて「可士和はダサイとヤバイしか言わない」と言われるようになりました。僕にすれば、それしかボキャブラリーがなかった、ということになりますが、アイデアを出しているほうは、面白いはずがありません。しかし、当初はなぜダサイのか、なぜヤバイのかを、うまく口に出して伝えることができなかったのです。
 ひどい言葉で批判しているうちに、けなしあいになり、毎回のように大げんかになりました。当時のクリエイティブディレクターは50代の大人が多かったですし、コピーライターもCMプランナーも僕より年上の先輩たち。仕事もすでに手慣れていて、アイデアもポンポン出てくる。

 ところが、僕はアイデアを出せない上に、ダメ出ししかしないわけです。またその理由がうまくロジカルにしゃべれないから、朝までケンカ、なんてことが何度もありました。今となっては、とてもいい経験をさせてもらったと思っています。先輩方にも、本当に申し訳なく、また感謝しています。

 このときの経験は何より大きな財産になりました。「これがどうしてつまらないのか」「どうしてこっちが面白いのか」と聞かれたときに、その理由を言わなければいけない状況にいつも身を置いていたからです。
これが、思いを言語化するトレーニングになりました。
 議論を何度も繰り返す機会をもらったことで、思いを言語化することができるようになった。自分なりの理屈を、頭の中に描けるようになっていったのです。

 ちなみにクリエイティブをめぐって大げんかする、なんてことは、今はもうなくなりました。ロジカルに語れるようになったので、けんかをする必要がなくなった、ともいえます。

 憧れの先輩アートディレクターと仕事をしたときも、どんなに否定されても、絶対にしゃべっていこうと思っていました。性格も手伝って、とにかくバンバン、アイデアを口にしていくのです。
 ところが、返ってくるのは「全然ダメ。全然面白くない」。これをずっと言われ続けました。
「こういうのは、どうですか。こうやって、こうやって、こうやるんです」
「うーん、なんかね、全然ダメだね」
「ああ、そうですか。じゃあ、こういうのはどうですか」
 こんなことの繰り返しです。

 僕は、ものをつくる仕事は、思いをぶつけ、意見を正直に表明することに存在意義がある、と考えていました。黙っていたら、話にならない。存在理由として耐えられない。何も発言できなかったら、退場しなくてはいけない。そう思っていました。
恥ずかしいのは、おかしなことを言って笑われることではなく、何も口に出せないヤツと思われることでした。そんな自意識を持っていたことが、自分自身を育ててくれたと思っています。

 やがて、憧れのアートディレクターからは、100回のうち1回くらい、
「うん、ありかもね」
 と言ってもらえるようになりました。これは本当にうれしかった。「ありだと言ってもらえた!」と。

思っていることをきちんと言語化するのは、最初から簡単にできるわけではありません。どれだけ本音で、どれだけぶっちゃけられるか。へこたれそうになっても、また立ち上がれるか。そういうところから、成長は始まっていくのです。


<POINT>
打ち合わせポイント(18) いいものはいい、悪いものは悪い、と言う勇気を持つ
打ち合わせポイント(19) 正直に意見をぶつけることで、思いを言語化するトレーニングになる
打ち合わせポイント(20) どんなに否定されてもへこたれない

打ち合わせは設計が肝!
目的のない打ち合わせは、ゴールのないマラソンに

 「いい打ち合わせ」と「悪い打ち合わせ」は何が違うのか。

 極めてシンプルに言ってしまうと、「打ち合わせの目的がはっきりしているかどうか」に尽きます。

佐藤可士和(さとうかしわ)
博報堂を経て「SAMURAI」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブン・ジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、「カップヌードルミュージアム」「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。毎日デザイン賞、東京ADCグランプリほか多数受賞。慶応義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。著書にベストセラー『佐藤可士和の超整理術』(日経ビジネス人文庫)他。

 もうひとつ、最初の打ち合わせで決めておくべきことがあります。
 目的がはっきりしている打ち合わせは、明らかにいい打ち合わせになる。決めることが明快だからです。一方、目的のない打ち合わせは、ゴールのないマラソンのようなもの。走り始めても、どこに行っていいかわかりません。
 大切なのは計画です。ゴールをどこにするのか。どの道を通るのか。どの山を登るのか。それが最初に定まっていないといけないのです。

 それは参加者全員の「ベクトル」を、先に設定したゴールに向かわせるということです。

 

 僕はひとつのプロジェクトがスタートするとき、まずは「大きな方針」をかならず決めます。いつまでに、何をするのか。そうした全体像を、最初の打ち合わせで共有する。最初の打ち合わせを、単なる「顔合わせ」で終わらせてしまっては、もったいないからです。

 このとき注意しているのは、真っ先にわかりやすいゴールを設定することです。要するに「いつまでに、どんな結果を出すのか」ということです。

 僕はまず、何らかの形で「リリース日」を決めます。大きくても小さくてもいいから、プロジェクトの成果を発表する日を設定する。明確に日にちを決めるということが意外とできていない場合が多いのです。
 例えば、漠然と「会社のブランディングをなんとかしたい」といっても、それだけでは、なかなかプロジェクトは前に進みません。だから、リブランディングを象徴するようなリリース日を設定するのです。
 決め方としては、「新商品が出る」など、何らかの発表に合わせてしまうこともありますし、きりのいいところで半年後、一年後に設定することもあります。創立記念日、代表的な商品の発売記念日など、記念日をリリース日にすることも少なくありません。
 いずれにせよ、何かを発表する日を決めると、「いつまでに、何をするべきか」が自然と見えてくるのです。

 同じプロジェクトを担うことになっても、参加者それぞれに立場や利益が異なることが多いのです。となれば、その立場や利益をお互いに理解して進めなければいけません。

 自分たちの利益は何か。打ち合わせ相手の利益は何か。やりたいことはどんなことで、やりたくないことはどんなことか。プロジェクトをめぐって、どんな力関係が発生するのか。社内においてプロジェクトはどんな位置づけか。応援者はどのくらいいて、反対者はどのくらいいるのか。それはどういう人たちなのか。

 こうしたことを確認しておくことは、プロジェクトを推し進める上で大切です。しかし、打ち合わせが始まる前、あるいは始まってから、これがきちんと整理できる人は意外に少ないものです。相手の利益が漠然としたまま、プロジェクトをスタートさせてしまう。これでは、満足のいかない人も出てきてしまう

 それぞれの利益はどのようなものなのか。これを探ることができるのも、実は打ち合わせです。ストレートに聞くことができないこともありますが、意識をしておくことです。
 そうすることで、全体の目的だけではなく、それぞれにおけるプロジェクトの目的や利益もはっきりと見えてくるものです。

最もやってはいけない打ち合わせは、「とりあえず打ち合わせしよう」でしょう。とりあえず、とはいったい何なのか。何のための打ち合わせなのか、目的がない。これでは、何を決めていいかわからない。何も決まらない、意味のない打ち合わせになる可能性が極めて高くなります

 次回も打ち合わせの設計図の重要性についてお話しを続けます。打ち合わせはその場だけが大切なのではなく、プロジェクト全体を俯瞰することがポイントだとお伝えしていきましょう。

<POINT>
打ち合わせポイント(21)打ち合わせの目的を明確にする
打ち合わせポイント(22)「ゴールの日にち」を決める

 

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佐藤可士和(さとうかしわ) [アートディレクター]

博報堂を経て「SAMURAI」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブン・ジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、「カップヌードルミュージアム」「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。毎日デザイン賞、東京ADCグランプリほか多数受賞。慶応義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。著書にベストセラー『佐藤可士和の超整理術』(日経ビジネス人文庫)他。


佐藤可士和の打ち合わせ

 打ち合わせはあまりにも身近で、これまで何の課題ももたれずに、そこかしこの企業で行われてきました。日本を代表するアートディレクター・クリエイティブディレクターである佐藤可士和氏も、その多忙な生活の多くを打ち合わせで費やしてきました。その中で、いかに効果的に打ち合わせをするかが、仕事の肝だと考えるようになったといいます。  拙著「佐藤可士和の打ち合わせ」(ダイヤモンド社)には、その打ち合わせ術が存分に盛り込まれています。今回の連載では、そのエッセンスをお伝えしていきます。  打ち合わせを制する者は仕事を制する! あなたも是非打ち合わせマスターになってください。

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