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佐藤可士和の打ち合わせ
【第10回】 2015年8月21日
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佐藤可士和 [アートディレクター]

「アイデア」なんてすぐには出ない!
「イメージ」をやりとりすること

打ち合わせはあまりにも身近で、そこかしこの企業で行われてきました。日本を代表するアートディレクター・クリエイティブディレクターである佐藤可士和氏も、その多忙な生活の多くを打ち合わせで費やしています。そして、たくさんの打ち合わせの経験からいかにそれが大切なものか『佐藤可士和の打ち合わせ』(ダイヤモンド社)で述べています。
前回は、「イメージを持って参加する」という打ち合わせ準備が重要とお伝えしましたが、今回は「準備をしすぎないことも大切」というお話を紹介していきます。まるで矛盾したような論ですよね? いったいどういうことなのでしょうか――

「アイデア」という言葉を
軽々しく使わない

 打ち合わせでよく出てくる言葉に「アイデア」があります。アイデアを出そう、アイデアを持ってきてほしい、アイデアを作ろう……。
 しかし、このアイデアという言葉は、かなり「重い」言葉であることを認識しておく必要があります
 アイデアがあるか、と問われたら、僕でもドキッとします。アイデアという言葉は、実はとても人に恐怖感を与える言葉だと思うのです。
 実際、アイデアと言われると、完璧で、かなり正解に近いような考え方を求められているような気になる人が多いでしょう。面白くないとアイデアではない感じもする。もし、最初から面白いアイデアを言わなければいけないとすれば、僕だって辛いです。

 よって僕がお勧めしたいのが、アイデアという言葉を安易に使わない、ということです。それよりも、「イメージ」という言葉でやりとりをする
 イメージを持っているか、イメージができているか、イメージはどんな感じか、イメージとしてはどっちの方向か……。このほうが、正しいか正しくないかはさておき、打ち合わせに入っていきやすい。自分の思いも伝えやすいのです。
 準備するにしても、アイデアを考えるのは大変でも、イメージならそうでもないでしょう。準備のハードルも低くなる。
 そして打ち合わせの場を、イメージしてきたことを出し合う場にするわけです。アイデアの一歩も二歩も手前でまったく構わない。

 僕自身、打ち合わせの最初に持っているのは、イメージです。
その中で、「やっぱり真面目な感じがいいよね」とか「もっとラディカルで、エッジが利いたものにしたほうがいいかも」といったような「イメージ」を吐き出していく。

 会社の話でも、商品の話でも、コミュニケーションとしてのテレビCMでも、こういうことをやっていきます。
 ちょっとまだよくわからないけど、とにかく面白いCMがいい、とか、誠実さが伝わるほうがいいと思う、とか、面白くなくても使い方がはっきりと伝わるほうがいいと思う、などといった具合です。

 アイデアの一歩手前にあるのがイメージ。手前の話があるから、アイデアに進めるのです。
 面白いCMを作ったほうがいい、となれば、じゃあ、お笑いタレントが出てきたらどうか、などなど。ここからはアイデアになっていきます。

 いきなりアイデアが出なくていい。イメージを出し合う。イメージを確認し合う。大きな方向感を確認していく。それが、価値あるアイデアにつながっていく大事な打ち合わせになるのです。

<POINT>
打ち合わせポイント(33)「アイデア」は重い言葉である
打ち合わせポイント(34)まずは「イメージ」をやりとりする

「準備のやりすぎ」にも
注意する

 打ち合わせの場でイメージを出し合うためにも、事前に準備をしておくことは、とても大切です。これこそが、打ち合わせ前の「下ごしらえ」です。「目的」を確認し、おぼろげで構わないので、自分なりのイメージを持っておく。

 そうなると、事前に資料を読み込んだり、考えたりすることが必要になると思いがちです。しかし、ここで難しいのが、あまりにたくさん資料を読み込み過ぎたり、考え過ぎたりしてしまうと逆効果になることもある、ということです。
 それを恐れているので、僕自身は実は打ち合わせでは、それほど準備はしないようにしています。

佐藤可士和(さとうかしわ)
博報堂を経て「SAMURAI」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブン・ジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、「カップヌードルミュージアム」「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。毎日デザイン賞、東京ADCグランプリほか多数受賞。慶応義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。著書にベストセラー『佐藤可士和の超整理術』(日経ビジネス人文庫)他。

 僕の仕事にはかならずクライアントがあるわけですが、「仕事を進める」というのは、「どんどんクライアントに近づいていくこと」でもあります。これは裏を返せば、実際のユーザーからは離れていく、ということです。

 クライアントからの要望は、多くのケースで「ユーザーの意識を変える」こと。そのためには、ユーザー視点は極めて重要です。よって、ユーザーの感覚を持ってクライアントに触れ、その印象をしっかり記憶しておくことが、重要になるのです。
 経営者に会う際でも、基本的に僕は一般ユーザーとして手に入る情報以上の予習はあえてしていきません。最終的には細かなところまで調べ上げることになりますが、最初はそれをやらない。あくまでユーザーの視点で会いに行ってみたいからです。

 「そんなことをしたら失礼になるのではないか」と思われるかもしれませんが、僕はそうは思いません。むしろ、事前にいろんな資料に目を通して行ったりすると、わかったような気になってしまう危険もあると思うのです。
 逆に、それをやらないから、初めて聞いた話に「へえ~」「そうなんですか」と素直に反応ができる。こういう感動こそが大切だと思うのです。なぜなら、多くのユーザーもそう思うはずだからです。

 もし万が一「こんなことも知らないのか」と問われたりしたら、僕はこう返そうと思っています。「知りません。でも、多くのユーザーもそうだと思います」。ユーザーの誰もが知っていると思ったら、大間違いだと思うのです。そんなことは、誰も気にしていないかもしれない。

 もちろん、すべての仕事が予習なし、というわけではありませんが、そうした最初の感動を大切にするようにしています。予習なしでいきなり、というのは、とりわけまだキャリアの少ない人には難しいかもしれませんが、予習し過ぎないことの大切さは、少しだけ頭に置いておいてもらえたらと思います。

 次回は、僕がユーザー視点に立つに至った経緯をご紹介していきたいと思います。

<POINT>
打ち合わせポイント(35)仕事をするというのは、どんどんクライアントに近づいていくこと
打ち合わせポイント(36)最初の感動を大切にするためにも、準備をしすぎないことも大切
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佐藤可士和(さとうかしわ) [アートディレクター]

博報堂を経て「SAMURAI」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブン・ジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、「カップヌードルミュージアム」「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。毎日デザイン賞、東京ADCグランプリほか多数受賞。慶応義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。著書にベストセラー『佐藤可士和の超整理術』(日経ビジネス人文庫)他。


佐藤可士和の打ち合わせ

 打ち合わせはあまりにも身近で、これまで何の課題ももたれずに、そこかしこの企業で行われてきました。日本を代表するアートディレクター・クリエイティブディレクターである佐藤可士和氏も、その多忙な生活の多くを打ち合わせで費やしてきました。その中で、いかに効果的に打ち合わせをするかが、仕事の肝だと考えるようになったといいます。  拙著「佐藤可士和の打ち合わせ」(ダイヤモンド社)には、その打ち合わせ術が存分に盛り込まれています。今回の連載では、そのエッセンスをお伝えしていきます。  打ち合わせを制する者は仕事を制する! あなたも是非打ち合わせマスターになってください。

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