全国で公共交通の空白を埋める
乗り合いタクシーが自治体の財政を圧迫
2015年8月13日付の熊本日日新聞は、熊本市が市内の西区河原町岳・大将陣地区に10月から「乗り合いタクシー導入」を決めたと報じた。
記事によると、本件は12日に熊本市役所で開催した市地域公共交通会議で承認された。具体的には大将陣地区内にある、およそ50世帯と路線バスの停留所「峠の茶屋」の間、約3.1kmを結ぶルート。年末年始を除き、予約により1日4往復する。実際に運営するのは民間のタクシー会社で、料金は中学生以上が200円、小学生が100円だ。こうした低価格では当然、赤字となるため、赤字分の全てを熊本市が負担する。熊本市では2013年制定の公共交通基本条例のなかで、バスの停留所から1km以上離れた地域を公共交通空白地域と定義している(同記事を基に、筆者が要約)。
こうした公共交通空白地域は、全国各地で年々増加している。電車の路線がない中山間地域や島等ではこれまで、日常の足として路線バスが使われてきたが、少子高齢化が進み地域経済が縮小するなか路線バスの利用者が減り、路線バスの廃線が増え、その代替に乗り合いタクシーを利用する地方自治体が増えている。前述の熊本市の場合、路線バスの停留所までという“つなぎ”だが、少子高齢化の進行が急激な地域では自宅から病院やスーパーマーケットまでを直接つなぐ乗り合いタクシーが増えている。
公共サービスとはいえ、地方自治体にとって乗り合いタクシーは所詮“急場しのぎ”であり地域交通の根本的な解決策ではない。乗り合いタクシーが増加するほど、自治体の財政の負担が増えるという悪循環が続くだけだ。
こうした“ネガティブスパイラル(負の連鎖)”を抜け出す可能性として、ひとつの事案を紹介したい。
その舞台は、大分県との県境近く、筑後川の源流にある人口7632人の熊本県阿蘇郡の小国町(おぐにまち)だ。
杉の産地が次世代の街づくり
さらに新たな交通システムの構築も
夏休み真っ盛り、ラグビー合宿の子どもたちが森林に囲まれたグラウンドを駆け回る。ここ北里カントリーパークは、小国町出身の偉人・北里柴三郎博士の、教育と文化の向上に対する志を受け継ぐ場として建設された。施設の中心に多目的利用の大型グラウンドがある。そのすぐ隣には、小国の伝統的工法「置き屋根」をヒントとした「ボックス梁工法」を用いて、建物全体の95%の建材に地元の小国杉を使用した2階立ての研修宿泊施設、木魂館がある。