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加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

中国の株価暴落ショックで見えた
李克強首相の苦悶と葛藤

加藤嘉一
【第59回】 2015年9月1日
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政治の論理が経済の倫理を凌駕
自らの思想を執行できない李克強

中国共産党にとっての絶対的・究極的・最終的命題を担保する上で不可欠な経済社会の安定的成長を保証するために、李克強首相がもがき、苦しみ、奔走している

 「経済基礎決定上層建築」

 昨今における中国の経済情勢を眺めながら、私はかつて北京大学で受講したマルクス主義の授業で教わったこの言葉を思い出している。担当教官が、この理論が中国の政治、経済、社会情勢に解釈を加える上でいかに重要な哲学であるかを力説していたのを覚えている。

 “経済基礎”とは「生産関係の総和」を、“上層建築”とは「社会イデオロギーや政治法律制度、組織、実施の総和」をそれぞれ指し、前者が後者の形態を左右、あるいは決定するという関係性を示している。

 昨今の中国情勢に照らし合わせて意訳してみると、「経済が成長してこそ政治社会は安定する」となる。そして、習近平総書記率いる中国共産党指導部は「その安定を担保する共産党が顕在するからこそ、中国は発展していく」と言いたいのだろう。

 現体制の国家指導者における分業状況を見てみると、経済基礎を直接担当するのが李克強首相であり、上層建築を直接担当するのが習近平総書記であることは明白であるが、後者に属する政治社会の安定という中国共産党にとっての絶対的・究極的・最終的命題を担保する上で不可欠な経済社会の安定的成長を保証するために、李克強首相がもがき、苦しみ、奔走している。

 そして、李克強首相が現状をどのように克服していくかという問題は、本連載が度々テーマとしてきた中国共産党の正統性に直結し、状況次第では、それを揺るがしかねない可能性も否定できない。私は現状をそのように捉えている。

 「李克強は自らの思想を執行できない現状に悩んでいる」

 7月末、国家指導者を親族に持つ共産党関係者が北京の片隅で私にこう語った。この人物によれば、“自らの思想”とは、漠然とした経済成長よりも、持続可能で、健全な経済社会環境を実現するための構造改革を重視し、それを担保していくための市場化や法に依る支配などの制度を構築していくこと、だと言う。「李克強は威勢のいいスローガンに依拠した政治を嫌っている。それよりも、淡々と政策を進め、制度改革に取り組むべきだと固く信じてきた」(同関係者)。

 そんな思想を“執行できない現状”とは、習近平総書記が担当する“上層建築”、そしてそれを実現するために習総書記が高度に重視する共産党の威信と政権基盤の安定を確保するために、(構造)改革よりも(経済)成長を優先しなければならない状況、換言すれば、“経済基礎”を構築していく過程において、政治の論理が経済の論理を凌駕し、後者が前者に屈服する局面を指している。そんな状況・局面に、李克強首相は“悩んでいる”と言っているのである。

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加藤嘉一 

1984年生まれ。静岡県函南町出身。山梨学院大学附属高等学校卒業後、2003年、北京大学へ留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2012年8月に渡米。ハーバード大学フェロー(2012~2014年)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員(2014〜2015年)を務めたのち、現在は北京を拠点に研究・発信を続ける。米『ニューヨーク・タイムズ』中国語版コラムニスト。日本語での単著に、『中国民主化研究』『われ日本海の橋とならん』(以上、ダイヤモンド社)、『たった独りの外交録』(晶文社)、『脱・中国論』(日経BP社)などがある。

 


加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

21世紀最大の“謎”ともいえる中国の台頭。そして、そこに内包される民主化とは――。本連載では、私たちが陥りがちな中国の民主化に対して抱く“希望的観測”や“制度的優越感”を可能な限り排除し、「そもそも中国が民主化するとはどういうことなのか?」という根本的難題、或いは定義の部分に向き合うために、不可欠だと思われるパズルのピースを提示していく。また、中国・中国人が“いま”から“これから”へと自らを運営していくうえで向き合わざるを得ないであろうリスク、克服しなければならないであろう課題、乗り越えなければならないであろう歴史観などを検証していく。さらに、最近本格的に発足した習近平・李克強政権の行方や、中国共産党の在り方そのものにも光を当てていく。なお、本連載は中国が民主化することを前提に進められるものでもなければ、民主化へ向けたロードマップを具体的に提示するものではない。

「加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ」

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