値下げは産業構造全体を破壊する

 それならば、100円の商品を80円に値下げしても、以前と同じ30円の利益を確保できるようにしたらいいと考える人もいるかもしれません。つまりは、商品原価を以前の70円から50円にまで引き下げるということです。

 しかし、そのしわ寄せは、どこへ向かうのでしょう?

 多くの場合、値下げを押し付けられた取引先、下請け企業、職人が被害を受けることになります。または原材料の質を落とす、工程を省く、サービスをやめるなど、商品そのものの価値を下げるため評判が落ちます。その姿は、長く続いたデフレ不況のもとで嫌というほど見てきました。

 自社の値下げに伴う原価の引き下げが、取引先や下請け企業への過度な仕入れ金額の締め付けという形になり、その結果、どの業界でも、もはや下請けイジメとも言える状況が生まれているのです。そうした状況が長く続いた結果、耐え切れなくなった下請け企業が倒産し、職人の方たちが廃業に追い込まれ、どの業界でも全国的に下請け不足、職人不足となっています。

 たとえば、建設業では、ようやく景気が持ち直してきて建設需要が増えても、職人の数が足りないために受注ができない状況です。このままでは、日本中から技術者が消えてしまうことにもなりかねず、やがては発注する先を失った発注元の会社のビジネスまでもが立ち行かなくなるという、悪循環が生じてしまいます。

業界全体の企業がこぞって値下げに走ると、行き着く先には、「ビジネスサイクルが壊れ、産業そのものが消滅する」という、最悪のシナリオが待っているのです。

 値下げをすると、短期的には顧客の数も販売数も増えて、社内の活気すら感じることもあるかもしれません。しかし、一時的には上手くいっていても、回りまわって結局は、あなたの会社もなくなるということになってしまいかねないのです。

 また長い目で見れば、日本から伝統が消えてしまうと二流、三流の国家になってしまいます。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを迎えるにあたって、国内に多くの観光客を呼び込みたいという展望を考えると、とても危機的な状況です。