前回に続き、経営改善計画と二つの業界――金融業界と税理士業界――の関わり方を眺めることによって、日本経済の再生の道を見出したいと思います。
経営改善計画の推進を担う2万3828件(2015年5月)の認定支援機関が税理士主体だというのは、必ずしもあたりまえの話ではない、というところから始めましょう。
金融庁が経産省・中企庁と提携しつつ構想したわけですから、当然、経産省傘下の組織がその中心だろうと推測します。具体的には、約2万人の中小企業診断士、中小基盤整備機構の職員が約800人、各地の商工会議所・商工会数が約2300、その中の経営指導員が約3800人いる。彼らこそが「実現可能性の高い経営改善計画策定」の主役であるはずです。しかし、そうなっていない。なぜでしょうか。
理由は簡単です。第一に彼らは日常的、継続的な接触がないから企業との信頼関係が築けていないので、マッチングのしようがないのです。前回述べたように、この点でベストポジションにあったのは金融機関、ほぼ類似のポジションにあるのは税理士です。
第二に、能力の問題があります。これについては、説明が必要です。普通、コンサルティングといえば、部分的、専門的な領域の改善を行うことで、企業全体の業績を、何が赤字の原因かわからない状態で、改善しようというのは、従来の専門領域コンサルティングの概念にはなかったのです。近いのはせいぜい中長期経営計画の策定くらいでしょう。
しかも、このコンサルティングは財務分析が基本にありますから、これに習熟していないとできないのです。そうすると、中小企業診断士でも商工会議所・商工会の経営指導員でもここがわかるという人材には限りがあります。この点でも金融業界はベストポジションにあったし、税理士業界も同様です。
さて、以上のような振り返りを経て、税理士業界が金融業界の轍を踏まぬための要点を三つあげます。第一は「業態変革」の岐路、第二は改善支援の本質、第三は改善支援の社会的意味です。
第一の点は、ITの進化が税理士市場を縮小するだろうということです。これまでに会計ソフトが自計化を進めてきましたが、今後、数年で開発されると推測される会計ソフトとe-TAXを結び付ける「自己申告支援ソフト」が従来型税理士の機能を相当、吸収するでしょう。この事態にどう対応するかです。
前回述べた認定支援機関の登場によって、税理士業界への社会のニーズ、期待がこの部分にあることは明白ですが、これをどのように業務の拡大に取り込んでいくかです。これは当事者が出す答えでしょうから、私の発言はここまでです。
第二の点は、本書で紹介したような経営分析ツールを開発したものとして、改善支援に関する若干の言及をしたいと思います。
自分たちは税法と会計のプロでコンサルタントではないし、ましてや経営者ではないから戦略領域のアイデアなど出せるはずがないと、やりもしないうちからできない理由をあげるのは得策ではありません。
改善支援の本質は教育によく似ていて、主役は本人でコンサルタントは脇役に徹するのです。数字づくりの枠組みを示し、赤字の原因把握のためのデータを日頃から整備しておき、コスト削減にせよV字回復にせよアイデア出しのヒントを提供する。
ヒントの出し方も本にあるような一般論からその会社に肉薄したようなものまで、ピンキリで、ピンが良いに決まっていますが、企業のすべてを体現して答えを出す――「統合的閃き(ひらめき)」――のはあくまで経営者の役目なのです。それを脇役が奪っては、改善は成り立ちません。
税理士が経営者に真剣に向き合って、赤字企業が改善の糸口を見いだし、事業の継続に希望が出れば、当然、経営者の目は輝いて来ます。「経営者と真剣に向き合うこと」が改善支援の本質なのです。
第三は改善支援の社会的意味です。金融円滑化法を利用したリスク企業40万社・60兆円は、バブル以降、ここ30年の日本経済と金融のツケと見られますが、これを厳しく査定すれば経済も金融ももたない。金融機関の自己資本が約50兆円、保証協会の総保証残高が27兆円ですから、影響の大きさが窺われます。
これだけの影響力ある企業群の経営改善支援ですが、モデルで想定すれば
認定支援機関2万4000機関×改善企業10社/年×2年=48万社
ですから、2年が4年、6年かかったとしてもまったく不可能という数字ではありません。
「失われた30年」の金融・経済のツケを、ここで解決しようというのですから、その歴史的意味たるや半端なものではありません。金融業界が出来なかったことを税理士業界がやれれば、その社会的プレゼンスはこれまでの比ではないでしょう。
結論です。「顧客への貢献」に立ち向かえば、必ずその業界、組織は繁栄します。「とりあえず認定支援機関」などと言わせずに、イノベーションを起こし改善支援に挑戦しようではありませんか。