「老後は日本で暮らしたい」
中国の友人に聞いた意外な本音

中国人の「マンションの爆買い」などとは全く違う次元の現象で、老後は温泉に浸かっているような安らぎがある日本に移住したいと考える中国人がいるようだ

 少し前、中国の経済減速のニュースが世界を駆け巡った。だが、そこで暮らす市井の人々の小さな声は、不思議なことにほとんど日本には伝わってこない。株価暴落に苦悩する高齢者の映像などは“絵”になるので頻繁にテレビで放映され、いつも同じようなコメントばかり取り上げられるが、ニュース性のない市民の日常生活は興味を持たれないからだ。

 だが、筆者は政治や経済のニュースに関係なく、広い砂漠の中で砂を1粒1粒拾うように、1人ひとりの中国人の考え方を日本の読者に向けて紹介してきた。それを知ることによって、その背後にいる数百万、数千万という中国人の生き方や考え方を知ることができ、また日本について考える材料にもなるからだ。そして、ともすれば日本人が得体の知れない存在と見がちな「中国人」というものを、いつか大きな枠組みの中で捉えられるのではないか、と考えてきた。

 今夏中国を訪れたときも、ニュースではないが、偶然にも「おやっ」と思う同じような話を複数の友人から聞いた。それは「老後は日本で暮らしたい」という切実な言葉だった。一瞬、「えっ?」と思ったが、話を聞いていくと、なるほど……と考えさせられた。取るに足らない日常生活の話題ではあるが、彼らの声には少なからぬ教訓が込められているようにも思える。それを紹介してみたい。

 蘇州市内で中国人の夫と2人で暮らす周さん(58歳)は、昨年思い切って埼玉県の郊外に中古マンションを購入した。価格は約3000万円、広さは約70平方メートル弱。2LDKだが、2人暮らしなので申し分ない。最寄駅から徒歩10分。まだあまり建物が建っていない新興住宅地ということだったが、周さんは購入した喜びを筆者にメールで伝えてきた。

「中島さん、いよいよ私たちも老後の準備に入りました!みんなマイホームを持っているのにうちは借家住まい、子どもができなかったので2人暮らし。中国人の伝統から言えば“規格外”の私たちのことをとやかくいう人もいましたが、この日のために我慢してきました。夫はあと数年、日系企業にご奉公しますが、その後は夫婦でのんびり。日本の我が家で安心して、年金生活を送りたいと思います」

 文面からワクワクしている気持ちが伝わってくる。周さんは筆者の著書にも出てくる旧知の友人だ。北京出身で1980年代は国営企業に勤めていたエリートだったが、夫の留学に伴って来日。日本に10年以上住んでいたが、夫の転勤により中国に引っ越してもう15年以上になる。筆者は中国に出張するたびに、できるだけ時間をつくって周さんに会ってきたが、教養があり、おっとりしている周さん夫婦は、「なかなか中国のスピードに馴染めない」といつもこぼしていた。