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社内プレゼンの資料作成術
【第15回】 2015年10月9日
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前田鎌利

ベネッセの新規事業を成功に導いた
「社内プレゼン」の秘密とは?

「たまひよの写真スタジオ」をご存じだろうか? ベネッセコーポレーションが2013年に始めた新規事業。同社の出産・子育て雑誌「たまごクラブ」「ひよこクラブ」の編集で培ったノウハウを生かして、雑誌クオリティの家族写真をスタジオで撮影し、すべての写真データがもらえるサービスだ。好評を博し、次々と店舗を拡大している成功ケースとして知られる。この事業を立案した同社の松崎哲也さんは、事業スタート時に社内で行ったプレゼンによって、経営陣や社員の共感を呼んだことも、成功要因のひとつだと振り返る。そして、そのプレゼンには、『社内プレゼンの資料作成術』の著者・前田鎌利さん直伝のノウハウが詰め込まれていた。おふたりに、その秘密について語り合ってもらった。

ベネッセコーポレーションで新規事業「たまよひの写真スタジオ」を立案・推進する松崎哲也さん(右)と『社内プレゼンの資料作成術』の著者・前田鎌利さん。

経営陣にプレゼンできる「大チャンス」を逃さない

――松崎さんが立案した新事業「たまひよの写真スタジオ」が好調ですね。

松崎哲也さん(以下、松崎) ありがとうございます。おかげさまで、お客様に喜んでいただけて、着々と店舗数を増やすことができています。

前田鎌利さん(以下、前田) 素晴らしいです。あの事業アイデアは、どういうところから出てきたのですか?

松崎 私は以前、出産・育児雑誌「たまごクラブ」「ひよこクラブ」の事業責任者を務めていました。そのころからずっと、情報提供をするだけではなく、体験価値でお客様の心をつかむ事業を展開したいと考えていました。しかも、雑誌事業で培った力を活かせる事業がいい。そこで、この事業にたどりついたんです。

前田 なるほど。 

松崎哲也(まつざき・てつや) 株式会社ベネッセコーポレーション ファミリー事業開発部フォトビジネス課 課長。1968年生まれ。関西学院大学卒業後、1991年に福武書店(現ベネッセ)に入社。通信教育、雑誌編集、出産・育児事業責任者などを経て現職。自分や家族が欲しい商品・サービスを一つでも増やすことを目指して、多くの新規事業開発に携わる。2013年から6つめの新規事業となる「たまひよの写真スタジオ」を推進。次々と店舗を増やしている。ソフトバンクアカデミア社外1期生。

松崎 写真というのは、時間が経つほど価値が増す特別な存在です。「ひよこクラブ」で培った編集力を生かして、まるで雑誌に出てくるようなお子様の写真データを提供すれば、かけがえのない「宝物」にしていただけるんじゃないか。しかも今の時代、SNSでのシェアや年賀状印刷などがしやすいデータでお渡しすればさらに喜ばれる。私自身もそんな写真スタジオが欲しかった!そんな実感のこもった事業企画だったんです。 

前田 たしかに、撮影データをすべてもらえる写真館はあまりないですよね。かわいい写真がたくさんもらえれば、シェアしたくなります。それが宣伝にもなる、いいアイデアですよね。とはいえ、新規事業を社内で推進してもらうのは簡単ではありません。どうされたんですか?

松崎 この事業がスタートして間もなく、社内の事業計画の共有会が開かれました。すべての部門が、社長をはじめ経営陣を含む全社員に事業計画をプレゼンするわけですから、私にとっては新規事業のアピールをする絶好のチャンスでした。

前田鎌利(まえだ・かまり) 1973年福井県生まれ。東京学芸大学卒業後、光通信に就職。2000年にジェイフォン(現ソフトバンク株式会社)に転職して以降、と17年にわたり移動通信事業に従事。2010年に孫正義社長(現会長)の後継者発掘・育成機関であるソフトバンクアカデミア第1期生に選考され第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして幾多の事業提案を承認されたほか、孫社長のプレゼン資料づくりも数多く担当した。その後、ソフトバンク子会社の社外取締役や、ソフトバンク社内認定講師(プレゼンテーション)として活躍。2013年12月にソフトバンクを退社、独立。ソフトバンク、ヤフー、ベネッセコーポレーション、大手鉄道会社などのプレゼンテーション講師を歴任するほか、全国でプレゼンテーション・スクールを展開している。著書に『社内プレゼンの資料作成術』(ダイヤモンド社)がある。

前田 たしかに、社長や経営陣に直接プレゼンできるのは、大チャンスですね。でも、緊張したんじゃないですか?

松崎 うーん、まぁ、緊張しないわけはありませんが、僕は「たまひよの写真スタジオ」には大きな愛情と自信があったので、自分の「思い」を直接伝えたいという情熱のほうが強かったんです。それに、僕には「前田式プレゼン術」という武器もありましたからね。

前田 そんなふうに言っていただくと恐縮します(笑)。 

「青」と「赤」のシグナル効果を活用する

――おふたりはどこで知り合ったのですか?

松崎 孫正義氏の後継者育成機関であるソフトバンクアカデミアです。私は、外部から第一期生として参加。そこで、内部選考ですでに活躍中の前田さんと出会ったのです。

――第一期で、前田さんのプレゼンが年間第1位を獲ったんですよね?

松崎 そうです。私も決してプレゼンが不得意ではなかったのですが、あまりのレベルの違いに唖然としましたね。もちろん、提案内容が優れているのが前提ですが、前田さんのプレゼンはとにかくわかりやすくて、説得力があった。それで、プレゼン資料のつくり方をいろいろと教えてもらったわけです。そのノウハウを、ベネッセ社内のプレゼンにも活用させていただきました。

前田 ありがとうございます。ちなみに、どのポイントに注意しましたか?

松崎 事業内容には自信がありましたから、それをわかりやすく伝えるために工夫しました。前田さんに教えてもらったことを意識しながら、パッと見た瞬間に何が言いたいかがわかるように、一枚一枚のスライドを磨いていったんです。なかでも、評判がよかったのが「ポジティブ・メッセージは青、ネガティブ・メッセージは赤」というノウハウ。「いい情報なのか、悪い情報なのかが一目でわかるからいい」と参加者から褒めてもらえました。

前田 シグナル効果ですね。『社内プレゼンの資料作成術』に詳しく書いたんですが、これは、世界中で通用するノウハウです。世界中どこでも青信号は「GO」、赤信号は「STOP」を意味します。つまり、「青」は「安全」を示すカラーで、「赤」は「危険」を示すカラーということ。だから、このスライドのように、「青」を使えば「いい情報」、「赤」を使えば「悪い情報」と瞬時に把握してもらえるわけです 。

松崎 そうですね。優れたプレゼン資料とは、決裁者に「そのスライドが何を意味しているか?」を考えさせない資料だと思います。「青」と「赤」のシグナル効果をはじめ、そのためのノウハウを前田さんからは、たくさん教えていただきました。「グラフは左、メッセージは右」もそうですね。 

グラフは「左」、メッセージは「右」

前田 それも重要なポイントですね。下の図のように、人間の右脳はグラフなどビジュアル処理が得意で、左脳は文字情報の処理が得意。そして、左目から入った情報が右脳に届き、右目から入った情報が左脳に届く。だから、「グラフを左、メッセージを右」に置くことで、決裁者は瞬時にスライドを把握することができるんです。


松崎 以前、僕はグラフとメッセージを、このように縦に並べてたんですが、これは頭に入ってきませんね。

前田 そうなんです。しかも、下のように、「グラフを左、メッセージを右」と「グラフを右、メッセージを左」を見比べてみれば、どっちがわかりやすいか一目瞭然です。だから、社内プレゼンで僕は「グラフは左、メッセージは右」を徹底していました。

 

枝葉末節のノイズが“ぼやけたプレゼン”をつくり出す

松崎 前田さんは、いつも「10秒でわかるスライド」にしなければ、とおっしゃっていましたね。

前田 それは、『社内プレゼンの資料作成術』で最も強調した点のひとつです。とくに、事業計画の共有会ような場だと、参加者は一度にたくさんのプレゼンを聞いて、事業理解をしていかなければなりません。だから、参加者の頭になるべく負荷をかけないために、パッと見た瞬間に「意味」がわかるスライドにする必要があります。

松崎 そうですね。それと、前田さんのアドバイスを受けて、スライド数もできるだけ絞りました。スライド数が多いだけで、わかりにくいプレゼンになりますものね。

前田 はい。僕は、社内プレゼンの本編資料は、できるだけ「5~9枚」でまとめるように心がけています。どんなに優秀な人物でも、9枚を超えるとプレゼン内容を把握するのが難しくなるからです。

松崎 そうそう。私も、ついつい「あれも言いたい」「これも伝えたい」と情報を盛り込みすぎるきらいがあります。その結果、参加者にとっては「何を言いたいのかわからない」というプレゼンになってしまう。それでは、理解してもらえる可能性はグンと下がってしまいますね。

前田 意思決定や内容理解に関係ない枝葉末節のノイズが入っていると、本当に伝えたいことがボケてしまうんですよね。たとえば、提案する事業を実施することによって、利益も売上も利益率も顧客満足度も上がることが見込まれる場合、誰だって全部伝えたいと思います。しかし、その気持ちをぐっと抑えて、意思決定や内容理解のうえで最も重要なことだけを伝える。そして、それ以外の要素は、思い切って「削る勇気」を持ったプレゼンのほうがうまくいきます。

松崎 そうですね。そして、その最重要ポイントを決裁者や参加者の頭に深く印象づけるような、インパクトのあるスライドを用意する。本編資料から落としたスライドは、アペンディックス(補足資料)としてもっておけばいいわけです。

前田 はい。その取捨選択をするためには、決裁を取る場合であれば、徹底的に決裁者の立場に立って、「最低限どのファクト(事実)があれば意思決定できるか?」を考えることが重要です。これが、社内プレゼンの資料をつくるうえでの最大のポイントだと思います。

松崎「たまひよの写真スタジオ」の事業決裁のプレゼンのときも、それを意識して考えました。だけど、いま見返すと「まだまだ」だと思います。前田さんの『社内プレゼンの資料作成術』に書いてある「キーメッセージは13文字以内」とか「グラフの不要な罫線は全部とる」といったポイントはできていないし、「このスライドはいらなかったかな?」と思うものもあります。もっと早く、この本を出しておいてもらえたらよかった(笑)。

前田 いえいえ、松崎さんはプレゼン・マスターだと思います。

社内プレゼンは、事業成功確率をも左右する

松崎 そんなとんでもありません。試行錯誤の連続。修行中です(笑)。それよりも、今日、前田さんに、どうしても伝えたかったことがあるんです。

前田 なんでしょうか?

松崎『社内プレゼンの資料作成術』のあとがきに、こう書かれていますね。「あなた自身が心の底から『会社のためになる』『社会のためになる』という『思い』があるかどうか。それが、最も重要なことなのです」。僕は、前田さんが書籍で述べていることで、あの部分がいちばん重要だと思うんです。

前田 そう言っていただけると、僕も嬉しいです。しかし、どうして、そう思うのですか?

松崎 実は、最近、痛感することがあるんです。「たまひよの写真スタジオ」がスタートしてもう1年以上たつのに、いまでもときどき経営陣や社員から、「あのプレゼンよかったよ。いいサービスだから、応援してるよ」といった声をかけてもらえるんです。

前田 それは嬉しいですね! 時間がたってもプレゼンを覚えていてもらえる。そして、気にかけてくれる人が社内にいる。これは、事業を成功させる重要なポイントですよね。それだけ、松崎さんがプレゼンに「思い」を込めた証拠じゃないでしょうか?

松崎 そうだと嬉しいです。もともと、私は「たまひよの写真スタジオ」のプロジェクトに思い入れがありました。だけど、この事業推進を全社員にどう伝えればいいか、プレゼン資料をつくりながら「ああでもない、こうでもない」と徹底的に考えたんです。その過程で、事業に込めた「思い」が、さらに熱を帯びていったように思います。「思い」が鍛えられるといいますか。

前田 おっしゃること、とてもよくわかります。プレゼン資料をつくる過程で、「思い」がどんどん本物になっていくんですよね。「確信」が持てるようになる。だから、プレゼン本番でも自然と情熱がにじみ出てくる。これが、聞いている人の心を動かすんじゃないでしょうか。

松崎 そういう意味では、前田さんが『社内プレゼンの資料作成術』でまとめられた数々のノウハウが本質的に重要なのではなく、あのノウハウを駆使して、試行錯誤しながらプレゼン資料を作り上げる過程にこそ本質があるように思うんです。

前田 そのとおりだと思います。そして、その「思い」は必ず決裁者や参加者に届く。そして、長く人々に応援してもらえるようになる。その意味で、社内プレゼンは、単に決裁をとったり、報告するためだけではなく、事業の成功確率を上げるために重要なんだと思います。

松崎 本当に、その通りですね。これまでのすべての新規事業がそうでした。

前田 これから、ますます「たまひよの写真スタジオ」が楽しみですね。ぜひ、がんばってください。

松崎 ありがとうございます。前田家の七五三写真もお任せください。(笑)

<終わり>

 

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前田鎌利 

まえだ・かまり 1973年福井県生まれ。東京学芸大学卒業後、光通信に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。2010年に孫正義社長(現会長)の後継者育成機関であるソフトバンクアカデミア第1期生に選考され第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして幾多の事業提案を承認されたほか、孫社長のプレゼン資料づくりも数多く担当した。その後、ソフトバンク子会社の社外取締役や、ソフトバンク社内認定講師(プレゼンテーション)として活躍。著者のプレゼンテーション術を実施した部署で、決裁スピードが1.5~2倍になることが実証された。2013年12月にソフトバンクを退社、独立。ソフトバンク、ヤフー、株式会社ベネッセコーポレーション、大手鉄道会社などのプレゼンテーション講師を歴任するほか、全国でプレゼンテーション・スクールを展開している。


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