舞台版『嫌われる勇気』の上演が、9月26日から赤坂RED/THEATERで始まっています。全編が青年と哲人の対話で構成されている原作は、なんとサスペンスフルな人間ドラマに変貌を遂げていました! さっそく舞台を鑑賞した原作者の岸見一郎氏と古賀史健氏に感想をうかがいました。

『嫌われる勇気』舞台で熱演する利重剛さん(右)と黒澤はるかさん。

頑張って生きてみようという
勇気がもらえるドラマ

──満席の会場で観終わった方の多くが、ハンカチで目を拭っていましたね。原作者として舞台をご覧になった第一印象はいかがでしたか?

古賀史健(以下、古賀) 実は鑑賞前に演出の和田憲明氏からシナリオの第一稿をいただいていたんですが、あえて読まなかったんです。事前に和田さんとお会いして「この方ならお任せしておけば大丈夫」と思っていたので、内容を知らずに舞台を観て新鮮な驚きを味わったほうが楽しめるだろうと。大正解でした。それにしても内容的には「まさかこんな物語になるとは!」という一言に尽きますね! これはもう観ていただくしかない、というのが率直な感想です。

──凄惨な殺人事件が起きたり、想像を絶するほど辛い過去をもった人物が登場したりと、あの原作をこのように戯曲化したのは本当に驚きでしたね。岸見先生はいかがでしたか?

岸見一郎(以下、岸見) 私も観終わってしばらくは目頭が熱かったです。劇全体のテーマは非常に重いものでした。それゆえ、生きていくのはすごく辛くて苦しいことだという印象を途中までは受けるかもしれません。しかし、最後の最後になってほんの少し希望の光が見えると言いますか、生きていてよかった、もう少し頑張って生きてみようという勇気をもらえるドラマだったと思います。そうした点が非常に印象的でしたね。

終演後の観客席で感想を語り合う岸見氏(右)と古賀氏。

──原作とはストーリーがまったく異なりますが、舞台ならではの魅力はどこにあると感じられましたか?

岸見 文字で書かれた本と異なり、舞台で演じる際には視覚に訴える必要があります。そのあたりがどう表現されるのか非常に興味をもって今回観させていただきました。
 たとえば原作における哲人つまり利重剛さんが演じる教授と、彼のもとに相談に来る人たちとの心理的な距離が、物理的に上手く演じられていましたよね。利重さんが少しずつ来談者に近づいていくといった変化です。細部まで考え抜かれた演出がなされ、利重さんも巧みに演じられていたことが非常に印象的でした。

古賀 原作では、哲人と青年という二人の登場人物しかいないんですが、青年のなかにもたくさんの青年の顔があって、哲人のなかにもたくさんの哲人の顔があるんですね。つまり、ある意味で多重的な人物像になっている。
 舞台のほうでも、原作の青年に該当する登場人物が複数出てきますし、哲人に該当する教授もある意味で多様な面を見せてくれます。それゆえ、登場人物が増えサスペンス的な物語が加えられることになっても、原作の『嫌われる勇気』がやろうとしていたことが何ら損なわれていません。本当によく原作を理解してくださったうえで解釈を加えて頂けているなと感じます。