<物語>
全国に1000店舗を超える外食チェーン「K’s・キッチン」を展開する経営者(中川昌一郎)の娘・あすみは、幼い頃から「将来は父の跡を継ぎたい」との思いを抱いていた。そんなあすみが大学1年生になったとき、昌一郎から「大学4年間をかけて入社試験を行う」と告げられる。試験内容は、昌一郎のもとに寄せられた業績不振の飲食店からの経営上の悩みを、問題を抱えたお店で実際に働きながら解決する、というもの。やがて、あすみと意気投合した親友のはるか(昌一郎とは友達感覚の間柄)も一緒になって、業績不振店の改善に取り組み始める。小さな箱の中に「製造、流通、販売、PR、マーケティング、マネジメント、サービス」などのビジネス要素が詰まった飲食店の中で、人間関係の複雑さや仕事の難しさにぶつかりながら、2人はそれぞれのお店の再生に立ち向かう。

メニューも看板も変えて絶好調!

「はぁ、美味しかった~~~幸せ~。もう動けない」
「調子に乗ってご飯おかわりするからだよ」
「だって、美味しいんだもん」

「ありがとう。で? ズレはわかった?」
「はい。お陰さまで、バッチリ理解できました!」
「マジで?」
「はい」
「え? 教えてよ」

「えっとですね……宇佐美社長。今日頼んだものって売れ筋ベスト5ですよね」
「え? マジで? ごはん、カルビ、牛タン、ロースわさび、ホルモン……あ、そうだ。たしかに売れ筋トップ5だ」
「ですよね。でもメニューには謳ってないですよね。しかも、強く売ってないですよね。他のものばかり強化して」
「たしかにそうだ。ってことはどういうこと? あれ?」

「宇佐美社長が長年食べてきて、美味しいと自信を持っておすすめする商品を、実際にお客さんもしっかり支持してるってことです。お客さんたちは同じような食べ方をしてるってことですよ。
 でも、お店は違うものを売ろうとしている。そこにズレや違和感があったんです」
「なるほどなぁ……間違いないな、これ。なるほど……いや、これ結構、衝撃だなぁ……これまでの戦略を全て覆すじゃん。うわぁ……」
 そう言うと宇佐美は、下を向いて頭を掻き始めた。

「宇佐美社長、明日もう一度2人で打ち合わせしません? 再度、売れ筋を分析しましょうよ。『焼肉屋だから当然の数字』とか言ってた私もしっかり反省しますし。やりましょ?」
「わかった。きっちり把握しよう。協力頼むよ」

 翌日、はるかと宇佐美は事務所で再分析を始めた。
「こうしてみると、全店ともトップ5は同じってことですね」
「そういうことだな。まさに俺のおすすめが全店ともってことだ」
「はい。あと面白いのが、オープンからの年数が長いお店ほどカルビの選択食数が高い。ってことは、リピートするお客さんのほとんどはカルビを支持している。あとご飯。これが、年月が経ったお店のほうがカルビが売れるという結論ですよね?」
「そういうことだね……これって昔の『味樹園』だよ。間違いなく『味樹園』といえばカルビとご飯だったもん。創作焼肉とかじゃなくて」

「宇佐美社長どうします?」
「悩むよなぁ……でも……うん……やってみようか。俺も腹くくるよ。メニューも看板も変えよう。うちのおすすめはカルビとご飯だ。これしかないってことだ」
「ですね。徹底してやりましょう。売れ筋ランキングとかも張り出して、焼き方マニュアルを作って、希望者にはわさび醤油・コチュジャン・生おろしにんにくも出しましょうよ」
「そうだな。せっかくだからベストの状態で食べてもらいたいもんな。やろう!」

 こうして、翌月から全てが差し替わった。
 それから2ヵ月後の会議。
 今日がはるかの最終セッションだった。

「どうですか?」
「絶好調!」
「どんな感じで絶好調ですか?」
「昨年対比130%超えだよ!」
「え~~~~! マジっすか?」
「うん、ホント。いやホント、はるかちゃんありがとう!」
「ありがとね。はるかちゃん」
 みんなが笑顔で口々にはるかにお礼を言った。

「本当はこのままずっと力になって欲しいけど中川社長との約束だから仕方ないな。ホントにこのままいなくなるってのは信じられないけど……」
「ホント寂しいです。私も……あ、ちょっと涙出てきちゃった…」
「よし、みんなではるかちゃんを胴上げしようぜ!」
「え、ちょっと、あ、まって、え~~~~~」

 こうして、はるか一人の『味樹園』でのセッションは大成功で終わった。