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田岡俊次の戦略目からウロコ

「積極的平和主義」で戦死者を出し、
安倍首相が窮地に立たされる日

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第56回】 2015年10月1日
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 新安全保障関連法案は9月19日に強行採決により参議院で可決、成立し同月30日に公布され、来年3月末までに施行されることとなったが、現実の問題が発生するのはその後だ。

 他国の部隊などが襲撃された際の救援に出動する「駆け付け警護」で自衛隊員に死傷者が出たり、危険の大きい「治安維持」や「補給・輸送」の任務を引き受けざるをえなくなり、安倍政権と自民・公明党が窮地に陥る可能性は低くない。無理な減量をしてなんとかリングに上がったボクサーが試合開始のゴングを待つのに似た格好だ。

停戦合意が崩れた南スーダンで
自衛隊に犠牲者が出る可能性大

昨年の陸自と米陸軍の合同訓練より Photo:JGSDF

 まず危険に直面するのは南スーダンに派遣されているPKO部隊だ。2013年1月から施設部隊(工兵)を中心に約330人(のち410人に増加)が派遣され、道路などのインフラ整備を行う予定だったが、同国でクーデター未遂事件が起こるなど、治安情勢は悪化して工事どころではなくなり、避難民の救護に力を入れざるをえなくなった。

 エジプトの南、ナイル川上流にあるスーダンは1899年からイギリス・エジプトの共同統治下に置かれ、1956年に独立したが、北部はアラブ系のイスラム教徒が圧倒的に多く国の主導権を握り、南部は黒人地域でキリスト教徒になった者も少なくなかったため内乱が頻発した。

 特に1983年からは激しい内戦となり200万人以上が死亡した。2011年7月にスーダン政府は南部10州(人口約1000万人)の独立を承認し「南スーダン共和国」が成立した。だが、今度はその内部で最多のディンカ族と、それに次ぐヌエル族との対立が起こり、2013年7月にディンカ族のキール大統領がヌエル族のマシャール副大統領を解任すると、軍の一部が反乱を起こして激しい内戦となり、50万人が国外難民、150万人が国内避難民になったとされる。

 避難民は戦闘を逃れて国連施設の駐屯地に逃げ込むことがあり、2013年12月には韓国の工兵部隊が避難民を守るため、日本の部隊から小銃弾1万発を一時借用する事態にもなった。兵士が避難民と共に駐屯地に逃げ込み、それを追う側の兵士と戦闘になったこともあり、「PKO部隊が反徒をかくまっている」と南スーダン政府から非難されることすら起こる状況だ。

 PKO協力法での参加条件「紛争当事者間の停戦合意」は南スーダン内で別の内戦が始まった時点で崩れ、日本はPKO部隊を撤収させるべきだったろうが、政府は「現在の事態は武力紛争ではない」として派遣期限を延長した。

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田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

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