「私たちは公務員なのですか? それとも軍人なのですか? これで隊員たちに動けとはとても言えませんよ」──。自衛隊の元海将の一人は、言葉を選びつつも語気荒く嘆く。
今、国会で審議されている新安保法制では、集団的自衛権行使容認の是非などで議論が沸騰している。だが、その陰で置き去りにされている問題がある。「自衛官の身分保障」だ。
もしもの時の補償額は?
他国の軍人はどうなっているのか?
新安保法制の下、集団的自衛権の行使や、PKO(国際連合平和維持活動)での活動範囲拡大が現実化すれば、現場の自衛官が直面する危険も拡大するだろう。ではもし自衛官が命を落としたならば、残された遺族に国からはいくら支払われるのか。
自衛官が公務中に死亡した場合、「賞じゅつ金」と呼ばれる弔慰金が支払われる。防衛省の「賞じゅつ金に関する訓令」によると、その支給額は最低額で490万円、最高額で2520万円だ。
かなりの幅があるが、最高額の賞じゅつ金を支給されるのは「特に抜群の功労があり一般の模範となると認められたもの」だけで、これは滅多に認められるものではない。防衛省関係者によると、「現状では災害派遣時、通常の勤務時を問わず、1000万円程度の支給が一般的」だという。
やや乱暴な言い方だが日本の自衛官の命の値段は約1000万円ということだ。これははたして妥当な金額なのだろうか。諸外国と比較してみたい。
まずはお隣の国・韓国ではどうなっているのか。下士官の最上位の階級に当たる曹長が戦時に命を落とす、つまり“戦死”したならば3億3000万ウォン(日本円で約3470万円)が残された遺族に弔慰金として支給される。一方、災害派遣を含む通常勤務時に命を落とす“殉職”の場合だと約2億4000万ウォン(約2500万円)が支払われることになる。殉職だけで見ても日本の自衛官と韓国軍の軍人とでは日本円にして約1500万円もの開きがある。
日本と密接な関係がある米軍はどうか。かつては米軍の戦死者への弔慰金は、約6000米ドル(約74万円)の1回限り支給と、耳を疑うような金額だった。しかしあまりにも安すぎるとの世論の声を受けて段階的に引き上げられ、2000年代半ばには約10万ドル(約1200万円)となった。