40億人、5兆ドル(約450兆円)といわれている新興国や発展途上国の所得階層の底辺を指すBOP市場。急成長が期待されることから、世界的にBOP市場をめぐる競争が始まっている。多くの日本企業が攻略に手を焼いているなか、BOP市場に着々と基盤と成長モデルを築いている味の素の強さに迫る。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木豪)

 インドネシアでは0.9グラム入り50ルピア(約0.5円)、アフリカのナイジェリアでも9グラム入り5ナイラ(約3円)の小袋の「味の素」が、多くの食料品店に並び、飛ぶように庶民に売れている。

 BOP(ボトム・オブ・ピラミッド=所得階層の底辺)という言葉をご存知だろうか。新興国や発展途上国の、所得は低いが厚みのある市場を指す。世界で40億人、5兆ドル(約450兆円)で、高成長が続く有望なマーケットとして、近年急速に関心が集まっている。

「高付加価値商品で勝負」を常套句にしてきた多くの日本企業が、BOP市場開拓に出遅れるなか、味の素はBOP市場開拓の成功例として注目されている。

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 2月1日、味の素は2010年3月期の連結営業利益を、当初予想から170億円増額修正して660億円になると発表した。底なしのデフレの影響で、国内食品事業の利益は予想を下回る見込みだったが、アジアやアフリカなどの小売り事業の、想定以上の伸びがカバーしたのだ。

 金融危機の影響で多くの輸出企業の業績回復が遅れるなか、新興国に基盤を持つ味の素の強みが発揮された。過去10年間で海外売上数量は、「味の素(原料を含む)」が1.8倍、だし汁系の「風味調味料」は5.4倍に拡大、今日では両品ともじつに約9割が海外で消費されている。

「海外食品事業は成長のドライバー」(伊藤雅俊・味の素社長)と位置づけ、16年には同分野の売上高を倍増させる計画を掲げた。こうした強気の目標設定の背景には、BOP市場の成長性もさることながら、BOP市場開拓の経験が積み重なり、成功パターンが見えてきたことがある。