日本人は失敗を恐れる国民だと言われている。筆者は拙著『世界のエリートの「失敗力」』の取材で、各国の失敗脅威指数を調査したことがあるが、日本は先進国の中で「最も失敗を恐れる国」の1つだった。そのため、「失敗を報告しづらい雰囲気」が蔓延している職場も多いと聞く。ところが、現在はどの企業でもイノベーションが求められる時代。何度も失敗を重ねなければ、成果が得られない。エイミー・エドモンドソン教授は、イノベーションを生み出すためには、上司が部下に「心理的安全」を感じてもらうことが何よりも大切だという。賢い失敗の重ね方、部下とのコミュニケーション方法について、エドモンドソン教授に聞いた。(聞き手/佐藤智恵 インタビューは2015年6月24日)
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優れた上司には
失敗を報告しやすい雰囲気がある
佐藤 著書『チームが機能するとはどういうことか』で、働き方だけではなく、失敗への向き合い方も柔軟に変えていきましょうと提案されています。私は失敗力(レジリエンス)をテーマに執筆したり講演したりする機会が多いので大変興味を持ちました。
日本企業に限らず、大企業で働いている社員は保守的になりがちです。「一度失敗したら会社人生が終わる」「できる限り失敗しないようにしよう」と思っている人は多いと思います。ところが、今の時代は失敗が評価されることもあります。失敗を重ねないと前へ進めないことがたくさんあるからです。
部下に「失敗しても大丈夫だ」と心理的な安全を感じてもらうために管理職が最初にやるべきことは何でしょうか。
Amy Edmondson
ハーバードビジネススクール教授。専門はリーダーシップと経営管理。同校のMBAプログラム及びエグゼクティブプログラムにてリーダーシップ、チームワーク、イノベーションなどを教えている。2013年、Thinkers50「世界で最も影響力のあるビジネス思想家50人」で第15位にランクインした。多数の受賞歴があり2006年にはカミングス賞(米国経営学会)、2004年にはアクセンチュア賞を受賞。世界各国で講演やコンサルティングも行っている。近著に『チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』(英治出版)。2016年には最新刊“Building the Future”(Berrett-Koehler, 2016)を出版予定。
エドモンドソン それは素晴らしい質問ですね。その前に申し上げておきたいのですが、いくら失敗体験が評価されるからといって「失敗をするために失敗する」というのは間違いです。私が仮に工場長だったとしても「さあ、皆さん、どんどん失敗しましょう。失敗は素敵なことです」とは絶対に言いません。失敗体験が資産となるのは、前例がないとき、実際にやってみないと分からないときです。同じミスを繰り返すのとは訳が違います。
部下に心理的安全を感じてもらうためにはどうしたらいいか。工場の例で説明しましょう。工場のようなルーティンワークの職場では、まず働いている人たちが「問題を指摘してもいい」「失敗を報告してもいい」と感じる環境をつくることが必要です。「こうやればもっとライン作業が早くなると思うのです」というような改善案を出しやすいシステムや体制を整えることも大切でしょう。
部下が上司に対して提案するのを躊躇してしまうのは、それが上司に対して失礼な行為だと誤解しているからです。「私が上司に提案すれば、『あなたは賢くない上司だ』と言っているも同様。そんなことをして機嫌を損ねたくない」と思っています。まずはその誤解を解くことから始めるのです。