「今のモバイル広告の大半は本当に酷い」「だいたいモバイルでは検索はしないんだ」「ユーザーは1日30分をアプリに費やしている」

 これらは、4月初頭にアップルのモバイル広告プラットフォーム「iAd」が発表された際、スティーブ・ジョブズCEOが述べた言葉である。詳しくは後述するが、これはまさにグーグルへの宣戦布告である。

 まず、iAd とは何か。そこから始めよう。

 現在すでに携帯端末でブラウザを使ったりiPhoneアップなどの携帯アプリを使ったりすると、小さな広告に出くわすことがある。これをクリックあるいはタップすると、その広告が大きく表示されるが、ジョブズが「酷い」と言っているのは、たいていが別のウェブサイトへつながり、そこで広告を見るように仕向けられているからである。

 つまり、今まで使っていたアプリから離れて別の広告サイトへ行ってしまい、さて戻ろうとすると、元の場所には戻れない。めんどうなので、ユーザーはよほどの関心がない限り、次からは広告をクリックしなくなるというわけだ。

 ところが、iAdの特徴はアプリから離れることなく広告が見られることだ。たとえば、あるアプリを利用していると、そこにまずは小さく広告が表示されたとしよう。それをタップすると、ナイキだの、トイ・ストーリー(映画)だの、広告がスクリーン一面に現れるが、見終わって閉じると、ちゃんと元のアプリがそこにあって、続けて利用できる。

 しかも、その広告が「エモーショナルかつインタラクティブ」なものだとジョブズは言う。単なる“売らんかな”の広告ではなく、ゲームをしたり、ストーリーがあったりする。

 加えて、ただの押し付けがましい広告ではなく、こちらから能動的にクリックして見たいものを見たり、バーチャルな世界に参加できたりもする。つまり、モバイルとは言え、かなりリッチ・コンテンツなのである。

 グーグルは検索キーワードとの関連で広告が表示されるアドセンスの仕組みで収入のほとんどを得ているが、これはコンピュータ上での話。ジョブズによるとモバイルはまったくの別世界で、ここを牛耳るのは検索ではなくアプリ。したがって、アプリ上に表示される広告こそが、これからの王道だ、というわけである。

 もちろん、グーグルとてモバイル広告に無関心なわけではなく、昨年11月に他でもないiPhone向けのモバイル広告プラットフォームを構築したアドモブという新興企業を買収することが明らかになった。実は、直前までアップルが買収交渉を進めていたらしく、グーグルは大金(7億5000万ドル)を積んでアドモブをアップルから奪い去ったのである。