スイスの資源商社グレンコアの株価が9月末に暴落した。長引く商品市況の低迷で資源大手の苦境ぶりが顕在化し、経営破綻の疑念が市場にくすぶり続ける。資源バブル崩壊の行く末には、世界的な金融危機の再来が待ち受けているとの観測も出始めた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 重石岳史)
9月28日のロンドン証券取引所。グレンコア株の終値は前日比で29%急落し、関係者に激震が走った。
この日、英国と南アフリカ共和国に拠点を置く投資銀行インベステックが、投資家向けメモで300億ドル(約3兆6000億円)に上るグレンコアの純有利子負債の多さに疑問を呈したことが株価急落の引き金になったとされる。
グレンコアは世界50カ国以上で操業し、銅や亜鉛といった非鉄金属、石油、石炭、穀物などの取引を手掛ける世界最大級の商品取引会社だ。
2011年に上場し、13年には同じく商品取引大手のエクストラータと合併。中国主導の資源ブームに乗り、鉱山や油田の権益を獲得する拡大路線を歩んだ。
ところが中国の景気減退で世界的な需要が落ち込み、主要商品の多くがこの1年間で半値以下になった。資源バブルでわが世の春を謳歌したグレンコアの財務は瞬く間に圧迫され、残ったのは大量の在庫だ。「このまま資源安が続けば、グレンコアの株主価値はほとんどなくなる」(インベステック)との悲観論も出ており、破綻リスクを取引するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場で同社のリスクが急上昇した。
これに対しグレンコアは投資家の疑念を振り払うのに躍起だ。債務削減策の一環として主力商品の一つである亜鉛を年間5万トン減産し、オーストラリアとチリの銅鉱山売却の方針を発表。株価は暴落前の水準まで回復したが、同社の時価総額は年初から60%以上、下落したままだ。
グレンコアの礎を築いたのは、原油スポット市場を考案し、巨万の富を得た「伝説の相場師」、マーク・リッチ氏(1934~2013年)だ。
74年にグレンコアを創業し、80年代にはイランとの不正取引や脱税を行った疑いで米国の司法当局に起訴されている。約20年間にわたって米国から逃亡し、最終的に当時のビル・クリントン大統領から恩赦が与えられた。